培養菌株のない日本産植物病原もち病菌の採集・培養・系統解析

もち病菌は患部が肥大する植物病原菌で,日本産固有植物に特異的な種が存在する。培養菌株のない既知種の採集・培養・系統解析により,もち病菌の分類を最新体系化する。

プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.

目的

もち病菌は患部が肥大する病徴のため古くから知られ、文化2年(1805)の文献に「椿木に人手生ず」と記録されている。もち病菌はツバキ科、ツツジ科、及びハイノキ科の植物に寄生する菌類(植物病原菌、植物寄生菌類)である。そのため日本産植物の固有種に特異的な種が記載されてきた。申請者のグループではDNAによる系統分類研究により、もち病菌の寄主特異性が支持される結果を得ている。他方明治以来新種が記載されているため、標本と記載は有効でありながら培養菌株のない記載種がある。加えて標本の管理が大学の一研究室に任されていたため、後年の研究者が標本を確認できずに不明種や疑問種に位置付けられている種もある。本研究プロジェクトでは文献と標本調査に基づき、培養菌株のない記載種のフィールド採集と培養を試み、抽出したDNAより系統解析を行う。寄主植物は局在している固有種であることが多いので、もち病菌の系統樹の位置づけから寄主特異性という解釈がさらに支持されると思われる。本研究プロジェクトにより日本産もち病菌の分類体系を最新版に更新し、寄生性の進化について植物の進化と対比しながら論じることが可能となると期待される。

内容

(1)文献と標本調査:日本菌類誌(伊藤、1955)及び森林防疫41: 41-48(江塚、1992)に日本産もち病菌の疑問種が取り上げられている。複数の疑問種が記載された沢田兼吉(東北生物研究1: 97,1950)の標本が近年、岩手大学博物館に移管収蔵された。申請者のグループは岩手大学博物館より標本調査の許可を受け、いくつかの標本については2022~2023年度に調査を行った。この調査により沢田氏の共同研究者である山田玄太郎氏採集標本も含め150点のもち病菌類の標本を確認した。疑問種バイカツツジも平もち病について、標本からの子実層掻き取り観察の許可を得て担子胞子等の形態観察を行い、2023~2024年度に岐阜県、東京都、栃木県で採集した標本と形態を比較検討した。新規採集標本から得た培養菌株を用いて、ITS及びLSU領域の塩基配列に基づいた系統解析を行った。分類学的再検討の結果、新種 Exobasidium setsutaienseを提案した(Phytotaxa (2025) 684: 078-092)。
(2)文献に基づき培養菌株のない既知記載種のフィールド採集:カンザブロウノキもち病菌 Exobasidium sakataniense Hirata (1981)は新種として発表されたが、培養菌株は宮崎大学を含め菌株保存機関で維持されていなかった。2023年10月に宮崎県日南市北郷町猪八重渓谷及び宮崎市加江田渓谷で本病を採集した。分離菌株による遺伝子系統解析によりハイノキ科に寄生性を有するもち病菌のクレードに属する配置が有意に支持された(論文作成中)。
(3)未記載もち病の発見:ア)ゲンカイツツジ平もち病(新称)、2024年4月に福岡県福岡市舞鶴公園で本病を採集した。分離菌株による遺伝子系統解析によりエゾムラサキツツジに寄生性のある既知種 E. miyabeiに一致した。エゾムラサキツツジとゲンカイツツジはともにヒカゲツツジ亜属に分類される。イ)シブカワツツジ平もち病(新称)、2024年5月に静岡県浜松市渋川親水公園で本病を採集した。分離菌株による遺伝子系統解析によりヨドガワツツジに寄生性のある既知種 E. dubiumに一致した。ウ)ヒカゲツツジもち病(新称)、2024年5月に山梨県上野原市坪山で本病を採集した。分離菌株による遺伝子系統解析により遺伝子データベースに登録されている既知種には一致しなかったため、新種である可能性があった。3種の未記載もち病害については論文作成中。

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