アブラムシ社会の齢分業システムとその進化
単為生殖でクローン繁殖する社会性アブラムシ類を対象に、利他的階級である兵隊の齢と役割分担の関係を多角的に分析して分業システムの実態を解明し、その進化機構に迫る。
プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.
目的
社会性昆虫のコロニーは、生物システムの1つの極致といえるであろう。行動的・形態的・生理的に分化したさまざまな階級を構築する多数の個体が、局地的な環境入力に対して各々反応を示し、その総和が調和的かつ適応的なコロニーレベルの応答として出力される。単純な反応の総体から高度で複雑なシステムがいかにして創発するのだろうか?本研究プロジェクトでは、クローンを産んで繁殖する社会性アブラムシ類を対象として、兵隊階級の齢分業システムについて分子レベルから個体・集団レベルまでさまざまな階層にわたる生物現象を統合的に理解することで、社会性生物における利他的階級の分業システムの進化的駆動力、維持機構、生理 的・行動的実現機構への理解を深めることを目的としている。
内容
社会性アブラムシでは、「兵隊」と呼ばれる個体が利他行動をおこなっている。高度な真社会性アブラムシのコロニーは、階級分化(兵隊階級と生殖階級)のほかに、労働分業(巣の掃除や防衛は兵隊)や生殖分業(子を産むのは生殖個体)など、アリやミツバチと似た社会システムを備 えている。
本研究では、人工飼料飼育系により系統維持や実験操作が可能な真社会性種ハクウンボクハナフシアプラムシを主な対象として、兵隊階級の齢分業がどのような分子・生理・生態学的基盤により成立し、進化してきたのか?という疑問に 対して、野外調査・行動観察・操作実験・生化学分析・遺伝子解析を組み合わせた多角的なアプローチで研究を進める。 また解析対象として他の社会性種や非社会性種のアプラム シを併用する。
ハクウンボクハナフシアプラムシでは、兵隊は若いときは巣内で清掃をおこない、年を取ると巣外で防衛に専念するという齢分業がみられる。そこでまず、野外コロニーにおいて兵隊の日齢と役割分担について調査し、状況に応じて柔軟な役割分担がみられるかを検証する。次に、タスク刺激として、兵隊の掃除/攻撃行動を解発するフェロモンや巣の匂いシグナルを同定する。そして人工飼料上で日齢やタスク経験の異なる兵隊のグループを作成し、各タスク翻敷に対する兵隊の応答行動や触角による受容能、日齢や記憶・学習が行動意思決定におよぼす影響などについて評価する。さらに、兵隊の脳内のホルモンや神経伝達物質の神経薬理学的解析および兵隊の触角や脳内で発現している遺伝子群の網羅的解析をおこなう。他の社会性昆虫の知見と比較することにより、アブラムシの社会行動を制御する神経内分泌機構と分業システムの成立・維持に関わる分子基盤やその進化の過程を明らかにすることを試みる。