絶滅危惧両生類の年齢構成と食性に関する保全生物学的研究
絶滅危惧両生類を対象に、骨組織を用いた年齢推定法による齢構成解析、標識再捕獲法による成長解析、胃内容物による食性解析を行い、生活史の解明の一助とする。
目的
日本の在来両生類のおよそ3分の1は絶滅が危惧される状態となっており、保全対策が急務となっている。しかしながら、多くの両生類では、生活史の把握が十分に進んでおらず、有効な対策を考える上で問題となっている。そこで本研究では、絶滅危惧両生類の指骨切片からスケルトクロノロジーと呼ばれる手法で年齢査定し、個体群の齢構成や成長率、寿命等を明らかにするとともに、胃内容物に基づく食性分析を行うことで成長に伴う食性の変化の解明を試みる。
内容
スケルトクロノロジーは活動期と休眠期を交互に繰り返す両生類の性質を利用したもので、休眠による成長の停止が骨に残したリング状の痕跡(LAG :line of arrested growth)を調べることによって年齢を査定する方法である。食性分析では強制嘔吐法により口腔内に胃を反転させ胃内容物を採取し、個体の餌資源利用を調査する。この強制嘔吐法はカエルが本来有している生理機能を利用しているため、非侵襲的な方法である。標識再捕獲法では成体に個体識別用マーキングを施し、再捕獲することによって成長を定量的に評価する。さらに飼育実験により成長を追跡することで生活史解明を試みる。また、両生類が冬眠しないといわれる琉球列島でも、冬季には活動が低下するため、LAGが形成されていると報告があるが、さらに緯度の低い八重山諸島における知見は得られていない。そこで、本研究では、八重山諸島に生息する両生類において、スケルトクロノロジーによる年齢推定の有効性について検証する。齢構成が明らかになれば、当該個体群の世代や成長、繁殖開始年齢などの保全対策上重要な生活史特性の詳細を得ることができる。
本研究では年齢、成長、食性というそれぞれ独立の研究を同時にアプローチするが、共通の手法やデータを用いるため研究は併せて行うことができる。さらに、年齢推定及び食性分析において、対象種を犠牲にすることがない手法を採用することで絶滅危惧個体群にダメージを与えることなく研究を進めることができる。