生育環境トレースと系統地理解析に基づくシネンシストウチュウカソウの産地識別
漢方薬に用いられる中国産シネンシストウチュウカソウを対象に,系統地理解析,および安定同位体比と微量金属元素組成の分析を行うことで,精度の高い産地推定を試みる。
プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.
目的
シネンシストウチュウカソウ(冬虫夏草;学名:Ophiocordyceps sinensis)は,コウモリガの幼虫に寄生する,子嚢菌門ボタンタケ目のオフィオコルジケプス科に属する昆虫寄生菌である。宿主であるコウモリガの幼虫と,菌糸で構成される子実体からなる複合体が,中薬材(漢方薬)の一つとして用いられている。中国のチベット自治区,青海省,四川省や雲南省などの,標高3,500~5,000 m級の高山帯がその代表的産地である。従来から天然品(野生株)のシネンシストウチュウカソウは希少性が高く,市場では高値で取引されている。
このように,シネンシストウチュウカソウは野生株の希少性が高いものの,流通過程での産地偽装が多発している。また,人工培養により生産された菌糸体由来の製品も広く流通しているが,人工培養品は菌株の活性に疑問がもたれている。さらに,野生株においても生育環境が異なることで薬効成分に違いが生じることが示されているが,その要因は不明である。これらのことから,野生株と人工培養品の識別,さらに野生株の産地識別は,シネンシストウチュウカソウの品質管理を進める上できわめて重要な課題である。そこで本研究プロジェクトでは,複数の科学的手法を組み合わせたシネンシストウチュウカソウの産地識別方法を確立することを目的とする。
内容
中国国内の複数地域よりシネンシストウチュウカソウの試料を収集し,系統地理解析を行う。あわせて,生育環境情報として化学指紋が残る安定同位体比と微量金属元素組成の分析を行う。以上の結果を複合し,シネンシストウチュウカソウの精度の高い産地推定を可能にする。