緩歩動物クマムシの幼若ホルモンによる性決定機構とその進化
性染色体を持たないクマムシの性決定に着目し、クマムシで幼若ホルモン(JH)を同定し、性決定におけるJHの効果を解明し、脱皮動物の進化について考察する。
プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.
目的
脱皮動物の仲間の節足動物門、緩歩動物門、有爪動物門の近縁関係については明確な結果は得られていない。節足動物の成長は、脱皮を促す脱皮ホルモンと、主に変態を抑制する幼若ホルモン(JH)の2つのホルモンの相互作用によって制御され、昆虫綱では主にJHⅢがJHであるが、他の節足動物ではファルネセン酸メチル(MF)がJHとして働いているものも知られている。JHは脱皮以外に性決定など生殖・発生現象に関与することが報告されているが、節足動物門以外の脱皮動物における機能は全く明らかにされていない。申請者はクマムシ性決定に着目し、クマムシのJHを同定し、性決定におけるJHの効果を解明する。これによりさらにステロイドからJHへの生合成系を獲得した脱皮動物3門の近縁関係解明を目的とする。
内容
1)クマムシJHの同定
①JH III標品をLC-MS/MSにてExtracted Ion Chromatogram(XIC)を測定し目的物の溶出ピークを検出し、JH IIIに固有のイオンモビリティ値を決定する。同様にMFの固有イオンモビリティ値を決定する。
②クマムシ100匹のサンプルをLC-MS/MSにてXICを測定する。上記のJHⅢまたはMFの固有のイオンモビリティを用いてDifferent Mobility Spectrometry法(DMS法)により解析し、それぞれのイオンモビリティと一致するか否かによって、クマムシがJHⅢを産生するかMFを産生するかを決定する(宇都宮大学との共同研究)。
2)JH曝露のクマムシ発生過程への影響
上記で明らかになったクマムシのJHを含む飼育液(濃度 pmol〜mmol)をクマムシに曝露する。JHは常温では不安定なので、飼育液は2日置きに交換し、仔虫雌雄比ついて調べる。各JH様物質(JHⅢ、MF、フェノキシカルブ、メソプレン)についても効果を求め比較する。
3)クマムシと有爪動物のJH合成酵素遺伝子の探索
申請者が作成したクマムシトランスクリプトームデータおよび公開されている有爪動物Euperipatoides rowellのトランスクリプトームデータを用いてJH合成に関連する酵素の遺伝子発現を探索する。