始原新口動物のボディプランに関する研究
走査電子顕微鏡観察、連続切片からの3次元立体構造解析を通して有茎ウミユリ類トリノアシの形態形成過程を解析し、新口動物の共通祖先が持っていた形質を推察する。
プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.
目的
棘皮動物有茎ウミユリ類トリノアシの個体発生における形態形成過程の研究から、全新口動物の共通祖先が持っていた形質を推察し、そのボディプランを構築することを目的とする。
内容
我々脊椎動物を含む脊索動物は新口動物に属する。この新口動物は、脊索動物門、半索動物門、棘皮動物門の3門からなる。新口動物3門の類縁関係については、歴史的にさまざまな論争があった。最近の分子系統解析の知見からは、半索動物と棘皮動物が姉妹群として水腔動物群を構成し、水腔動物が脊索動物と姉妹群になるとする説が有力視されている。棘皮動物は5綱(ウニ綱、ヒトデ綱、ナマコ綱、クモヒトデ綱、ウミユリ綱)からなるが、その中で、棘皮動物共通祖先の形質を最もよく保存しているのはウミユリ綱とされている。ウミユリ綱には、終生茎をもつ有茎ウミユリ類と、発生初期には茎を持っているが成体は茎を欠いているウミシダ類の二つのグループがあり、有茎ウミユリ類、とりわけ、その中のゴカクウミユリ類がより祖先型であるとされる。従って、全棘皮動物の中で共通祖先の形質を最も良く保存しているグループが有茎ウミユリのゴカクウミユリ類である。有茎ウミユリ類は、今から3-4億年前の古生代の海に大繁栄して、大量の化石を現代に残しているが、現生種は全て深海性であり、採集と飼育の困難から研究が進んでいなかった。ところが、日本列島の太平洋沿岸海域は、動物地理学上きわめて特殊な海であり、深海性の動物が比較的浅海に現れることで知られている。この海域では、ゴカクウミユリの一種トリノアシ(Metacrinus rotundus)がおよそ130メートルの深さから採集される。我々は、日本列島太平洋沿岸の、この動物地理学上の特性に注目して、トリノアシ研究を行い、その個体発生過程の記載に初めて成功した(2003年)。この成功に基づいて、トリノアシ個体発生における形態形成過程の研究から、全新口動物の共通祖先が持っていた形質を推察して、そのボディプランを構築することを研究のテーマとしている。それにいたる方法として、走査型電子顕微鏡による観察と、胚、幼生の連続切片から構築する3次元立体構造の解析の二つの方法を行っている。この研究は、我々脊椎動物の起源にも迫る、極めて重要なプロジェクトである。