IoT百葉箱の活用による新しい気象学習プログラムの開発

感染症対策等による登校不能の事態でも、全国の気象データをリアルタイムで取得できる教育・研究体制を構築する。

プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.

事業概要

本事業では、IoT百葉箱を日吉キャンパス(横浜市港北区)と横浜初等部(横浜市青葉区)に設置した。この百葉箱は10cm×10cm×30cm程度の非常にコンパクトな観測機器で、設置場所を選ばず、電池で稼働し、データをBluetoothで送信可能である。これまでの気象観測機器にはない、以下の3つの特徴を有する。①全国の気象観測端末と(株)内田洋行のクラウドサービスを介してつながり、全国各地の気象データをリアルタイムで観察できる。②景観撮影用カメラ画像と気象データを連動して見ることができ、天気と気温、湿度、気圧の変化の関係を視覚的にとらえられる。③在宅でIoT百葉箱の各種気象データに(過去も含めて)アクセス可能なため、現在の感染症対策の状況下でも、オンラインかつリアルタイムで学生に気象の研究や学習を提供できる。
気象観測には、多地点の同時観測が研究レベルにおいては必須である。神奈川県の大気が南西から北東にかけて移動することを踏まえると、その天気の変化をリアルタイムで観測する場合、その軌道上に観測地があることが極めて重要になる。湘南藤沢中等部・高等部(以下SFC中高)では、すでにIoT百葉箱を導入していたため、本事業で日吉キャンパスと横浜初等部に設置できたことにより、3地点の同時観測が可能となった。
日吉キャンパスでは、百葉箱は来往舎横の植木に設置し、カメラは第二校舎2階の講義室から、記念館前の広場の上空に向けて広い視野を撮影できる。横浜初等部では、百葉箱は第2音楽室前の屋上広場の柵に設置し、カメラは屋上の手すりに固定し、こちらも広い視野の撮影が可能である。それぞれのカメラの画像や気象データはこちらのリンク(http://iot100.uchida.co.jp/)より確認が可能である。
また、全国にある多地点のリアルタイムの観測データを利用することで、代表者が今年度から開講した自然科学研究会III・IV(物理学副専攻認定科目)の学生が、様々な研究テーマでコロナ禍での研究活動を行うことも可能になった。

成果・今後の展望・計画等

リアルタイムの気象データの取得は、天気予報の根幹をなす、気象観測の原点である。代表者が今年度から開講した自然科学研究会III・IV(物理学副専攻認定科目)の研究テーマとして、一人の学生は「IoT百葉箱を活用した八ヶ岳麓における霧の発現観測」を実施した。遠隔カメラの画像を用いて、霧の発生を一年間分調べ、発現型を分類し、百葉箱の観測データや気圧配置から、発生条件の研究を行った。これら成果をまとめたものを、物理学の副専攻論文として提出、審査中で、日吉紀要にも投稿する予定である。また、全国のIoT百葉箱の気圧変動と片頭痛の関係を調査中の学生もいる。
日吉に設置した百葉箱に関しては、気圧、気温、湿度に関して、塾高の屋上に設置されている通常の百葉箱の実観測データの記録と比較を行い、キャリブレーションを実施中である。今回、IoT百葉箱を導入できたことで、次年度以降も自然科学研究会III・IV(物理学副専攻認定科目)の学生が、様々な観測的研究テーマで活動を行うことが可能になった。
今回の事業は、代表者の自然科学研究会での研究教育活動への利用に主眼を置いたものになっているが、このIoT百葉箱の活用は、学生に新しい気象学習を提供し、自然科学への興味関心を高めることも期待できる。今後は、事業メンバー内外のオンラインを含めた大学の各教室での授業での利用はもちろん、協力者の一貫教育校での拡張的な利用も視野にいれている。また、大学内外で幅広く宣伝し、日吉キャンパスの全学的な教育的利用も促進していきたい。
将来的に一貫教育校も含めた気象データネットワークが構築できれば、測定した気象データ(水文情報)を使って市民の防災行動やマーケティングといった将来予測の意思決定プロセスを学ぶことも可能になるだろう。

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