化学実験のオンライン授業用映像教材の開発

コロナ禍等により登校不能な事態でも対面授業と同様の実験を学ぶことのできるオンライン教材を開発する.

プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.

事業概要

本年度はコロナウィルス感染拡大を防ぐために,多くの大学が遠隔授業の対応をとった.慶應義塾も授業の開始を遅らせ,春学期はすべてオンラインで行い,秋学期はハイブリッド授業となった.本来は参加して体験することが重要な実験授業もオンラインにせざる得ない状況となり,教材の準備を余儀なくされた.実験手順を示して,頭の中で実験操作をイメージしてもらう方法もあるが,実験教育としては不満が残る.教員が実験をするところをリアルタイム映像で見てもらうか,事前に撮影した実験動画を見てもらい,バーチャルで実験をすることで,体験してもらうしかないであろう.しかし,今年度の春学期のようにキャンパスが閉鎖した状況では,リアルタイムの映像を見せることは現実的ではなく,実験動画などの学習教材を準備することもできなかった.以上のような背景から,今年度や来年度の授業教材に限らず,あらかじめ,有事に備えておくことが必要であることをあらためて認識し,このような緊急時に使用できる動画教材を作成した.本教材はあらゆる学部や大学で活用可能な教材となりうるだろう.
オンライン授業用教材としての動画に加えて,すでに,公開していた化学実験の基本操作法の動画も拡充した.化学実験基本操作法の動画は自然科学研究教育センター(自然セ)や申請者のwebサイト上で公開して1)2),学生の予習,復習に役立てることができた.今年度の秋学期のように一部対面授業ができるようになっても,なるべく短時間で,安全に実験授業を行えるようにするための予習動画や復習教材としての動画も重要であり,そのような動画も作成した.
具体的な実施内容を以下に記す.

(1)ガイダンス動画の作成
授業のガイダンスの資料をパワーポイントで作成して音声を入れ,スライドショー形式の動画教材を作成した.
(2)実験操作法の動画教材作成
現在の動画に追加して,一般的な実験操作の動画を撮影,編集し,教材を作成した.
(3)実験内容の説明動画の作成
実験内容の説明動画を撮影,編集し,教材を作成した.
(4)オンライン実験動画の作成
オンラインで受講する実験授業用の動画を作成した.
(5)対面授業の予習復習用動画・欠席者用オンライン動画の作成
対面実験授業において実験室滞在時間を減らすために,実験テーマによっては,予習動画・復習動画を作成した.また,欠席者にオンライン実験をしてもらうための動画も作成した.
(6)クイズの作成 
実験の理解を深めるために,Googleフォームを用いてクイズを作成した.また,解説をつけることで,実際に指導ができない状況でもフィードバックできるようにした.
(7)実験授業用PDFの作成
授業用のPDF配付資料を作成し,その中に貼ったURLから研究機関のライブラリーやYou Tubeにアクセスできるようにして自習できる教材を作成した.
(8)実験授業用資料の作成
授業用の資料をパワーポイントで作成して音声を入れ,動画教材を作成した.
(9)Zoom動画の作成
日吉キャンパスの各所,教室,教員の顔を見せることで,対面授業の雰囲気を味わえるZoomで動画を作成した.

オンライン授業および対面授業の授業用教材として,当初想定していなかった教材も作成した.

成果・今後の展望・計画等

多くの学部・教員がこのプロジェクトに参加したことで,今後,対面授業が行えず,オンラインの実験授業を余儀なくされた場合の教材が数多く作成できた.教材の一部は一般公開しているので,あらゆる学部や大学,高校で活用可能であり,他大学のオンライン授業にも貢献することができるアーカイブが作成できた.実際に,活用の報告もあった.また,実験器具や装置の映像とその解説,操作法の動画,理解度チェックページについては通常の授業でも学生の予習復習において活用できる.効率的な学習ができ,教育効果が期待される.実験経験の少ない学生や生徒にとって,実験操作や内容をイメージすることができ,理解の助けになる.さらに,注意点を示すことで実験における危険や事故の防止,廃液や排気による環境破壊の防止にも役立つ.初めて扱う器具や装置,操作法はもちろんのこと,前回の使用から期間が空いてしまっても,映像で復習することで,記憶に定着させやすい.現代の学生にフィットした教育ができ,効果的な学習が促進されるだろう.実験動画は今回のようなオンライン授業で活用できるだけでなく,TAの予習や欠席した学生への補講などに役立てることも可能である.オンライン実験動画の作成は,今回の非常事態で初めての試みであったが.授業で実際に学生が行う内容とまったく同じ実験を行い,実験者の目線に合わせて撮影した.また,実験内容によってはビデオカメラを2台設置し,温度計などの計測や観察してほしい部分の拡大撮影を同時に行い,これらの動画を同時に視聴できるように編集することによって,実際に実験を行っているような臨場感のある実験動画を作成した.作成した動画から測定結果を学生が読み取ったり,観察したりするなど,市販の実験動画とは異なり,実験教育を目的とした動画を作成することができた.一部の教材についてはweb上の公開に加え,教育関係の学会での発表を行うことで,外部への発信を行い,新たな教材開発として提案し,慶應義塾大学のみならず,多くの大学の一助となるであろう.今後,今回のプロジェクトで作成した教材をメンバー内で共有し,学部横断型で互いに活用できるように資料の整理を行う予定である.さらに,オンライン用実験動画,追加の実験操作の動画や予習用・復習用教材を順次作成していきたい.

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