化学実験の予習用映像教材の開発
事業概要
高校時に理科を履修していても,実験に関してはほとんどの学生が経験に乏しいのが現状である.化学実験では,危険を伴う試薬や操作が避けられない.また,試薬の環境への排出抑制も常に考える必要がある.このような状況の中,一般的な注意や操作法については初回授業で行い,特に注意を要する試薬や操作,新しく使用する機器の操作法などに関しては,テーマごとに短い解説を行うのが通常の実験授業スタイルである.しかし,1週間に1回や2週間に1回,あるいは,もっと間隔の空く授業では説明した内容の記憶も薄れてしまう.また, 60人〜80人程度の学生に対して教員が2〜3人とTeaching Assistantが2〜3人程度の授業でも実験初心者である学生の指導は行き渡らないのに,教員2人での指導を強いられている授業もある.このような背景のもと,教員が実験に関して口頭で説明を行っても,学生の理解は不十分であることが多い.
そこで,我々は10数年前にリアルタイム動画による説明を導入し,視覚からの学習が有効であることを確認した
1)2)3).さらに,反復学習ができるように,いくつかの操作法の動画を自然科学研究教育センター(自然セ)や申請者のweb上で公開した
4)5). 使用する実験器具や操作法の動画をweb上に公開しておけば,学生の予習に役立てることができ,実験内容の理解が深まるだけでなく,安全面や環境面での効果も期待される.
現在,公開している映像教材は限られた操作法の動画のみである.本プロジェクトでは,操作法の動画を拡充するとともに,新たに実験器具や装置の映像も加え映像教材を充実させた.さらに,学生がいつでも視聴でき,自分の理解度もチェックできるインタラクティブな環境を整えた.具体的な実施内容を以下に記す.
(1)実験器具・装置の教材作成
化学実験で用いる一般的な器具や装置の写真を撮影し,それぞれの名称と解説のページを作成した.
(2)実験操作法の動画教材作成
現在の動画に追加して,一般的な実験操作の動画を撮影,編集し,教材を作成した.また,授業中にインストラクターが携帯するiPadやブルーレイにも動画を保存した.
(3)スマホに適したウェブサイトへの改変
今までのウェブサイトは,スマホへの配慮がなされていない旧タイプのものであったので,スマホから閲覧したときに見やすいウェブサイトにリニューアルした.
(4)授業予習ページの作成
実験の予習がしやすように,実験テーマごとに使用する試薬や実験器具,動画などをまとめたページをつくった.
成果・今後の展望・計画等
まず,ウェブサイトをスマホに適したものに改変したことで,学生が格段にアクセスしやすくなるだろう.
化学実験で用いる一般的な器具や装置の映像と名称および解説,操作法の動画をweb上に公開することで,慶應義塾の大学生のみならず,一般の大学生や高校生も活用可能なアーカイブができた.実験経験の少ない学生や生徒にとって,実験操作や内容をイメージすることができ,理解の助けになる.また,注意点を示すことで実験における危険や事故の防止,廃液や排気による環境破壊の防止にも役立つ.初めて扱う器具や装置,操作法はもちろんのこと,前回の使用から期間が空いてしまっても,映像で復習することで,記憶に定着させやすい.
授業予習ページを通して予習することで,効率的な学習ができ,教育効果が期待される.
このような教材を通して,現代の学生にフィットした教育ができ,効果的な学習が促進されるだろう.web上の公開に加え,教育関係の学会での発表を行うことで,外部への発信を行い,時代の変化により要求される新たな教材開発として提案し,慶應義塾大学のみならず,多くの大学の一助となるであろう.
なお,当初計画していた学生が自身の理解度をチェックするための簡単なクイズのページについては,新たに加わったウェブサイトのリニューアルを優先させたためもあり,納得のいくページを作成することができなかった.今後,検討を重ねて,実現させたい.さらに,他の実験操作の動画や予習用・復習用教材を順次作成していきたい.
【参考文献】
1)“動画を用いた初年次学生実験ガイダンス− リアルタイム動画とストリーミング動画の活用 −”,久保田 真理,大石 毅,初年次教育学会第4回大会,1E-2,久留米大学,2011年8月.
2)“動画を活用した実験指導”,久保田 真理,大石 毅,日本化学会第92春季年会, 3H2-47,慶應義塾大学,2012年3月.
3)久保田 真理,慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 平成22年度文部科学省選定 大学教育・学生支援推進事業 大学教育推進プログラム活動報告書「科学的思考力を育む文系学生の実験の開発 ― 実学の伝統の将来への継承 ―,35 (2012).
4)
https://www.sci.keio.ac.jp/gp2010/teaching_material02/detail00004.html
5)
http://user.keio.ac.jp/~shinly/video.html