思考力を養う学生実験の授業への導入 − 旋光度による糖の加水分解速度実験 −

昨年度開発した「思考力を養う学生実験」について,授業時間内で完了する実験内容,準備する試薬,器具,装置の選定とテキストの作成等,教育効果をより高めるための検討を行う.

プロジェクト内容については,当該年度の活動報告書をご覧ください.

事業概要

 一般的に学生実験は学習することが大きな目的なので,既知の内容を既知の実験方法で行う.この際に,授業における時間制限と安全面から,実験方法はかなり詳しく提示される.しかしながら,このアプローチでは何も理解していなくても実験のゴールに辿り着けるという欠点がある.
 そこで,我々は数年前から考える力を育むため,学生実験の授業の半分は「実験方法を示さず,自分たちで考えた方法で実験を行う」という形で行っている.具体的には,「金属陽イオンの分離分析」を取り上げ,第I属から第IV属の分離分析の方法のみを記載したプリントを配布し,「配布した一般的な分離分析の手法で,本当に金属陽イオンの定性分析が正しく行われるのかどうか実験を通じて確認せよ」という課題を与え,計4回の実験を遂行させた.4人グループで行い,あらかじめ,課題を解決するための小さなテーマをいくつか立て,そのための実験方法を考えてくるのである.このように,実験方法を自身で構築させることを義務づけたところ,より積極的に,また主体的に実験を行う姿勢が身についていると評価できた 1)
「金属陽イオンの分離分析」は我々が意図する「考える力の育成」に非常に適していたが,環境上の理由から数種の金属イオンが使用不可となってしまった.そこで,この課題に代わる「学生の思考力を養う実験」を開発し,実験科目の教育効果を上げることを見据え,独自に「旋光度による糖の加水分解速度」実験を昨年度開発した.ショ糖を加水分解すると,グルコースとフルクトースの等量混合物が得られる.これらの糖は旋光度が異なるため,旋光度の時間変化を測定することにより,糖の加水分解の速度について学習することができる.また,旋光度は溶液の濃度と観測管の長さに比例することが知られている.この実験開発では,二つの課題を設定している;(ⅰ)旋光度と溶液の濃度および観測管の長さの関係式が本当に正しいのかを証明する実験を考え,実際に実験することにより証明する(この課題のもと,実験を通して,与えられた式の理解が可能となる).(ⅱ)ショ糖を加水分解させて旋光度の時間変化を測定し,加水分解速度について理解する.
 今年度は実際に授業に導入するために,教員レベルでなく学生レベルにおいて,この実験課題が円滑に,かつ充分に遂行できるように検討を重ねた.
 実際の授業時間でどのように進めるか,提供する試薬や器具について検討した.実験の操作手順は学生に考えてもらうので,決められた時間内に想定した取組が行えるようにするために,どのようにテーマを設定し,どのような試薬や器具をどの程度揃えればいいかを検討した.

成果・今後の展望・計画等

 昨年度「思考力を養う学生実験の開発」を行い,旋光度について実験を通して理解し,糖の加水分解を旋光度の測定により学習するテーマが「思考力を養う学生実験」として適用し得ることがわかった.今年度は,授業に実際に導入したときに,時間内に円滑に実験ができるように,テーマ設定を検討した.また,実験をどのような条件で行うのかは学生自身が決めるわけであるが,実際にどのように学生が実験を行うかを想定し,かつ,教育効果を上げるためにはどうしたら良いかも踏まえて,準備する試薬,器具,装置の検討を行い,整備を行った.
来年度の春学期の実験に導入するため,テキストの作成も行った.学生がどのように実験するか楽しみである.今後,実際の運用を見て,必要があれば微調整して,より教育効果のあるスタイルにする予定である.
 引き続き,「自分で実験手法を考える」学生実験を新しく検討するとともに,こちらで方法を示す一般的な学生実験についても新たなテーマを検討していきたい.

【参考文献】

1)“思考力を養う化学実験の提案”,久保田 真理,初年次教育学会第5回大会,1B-2,文京学院大学,2012年9月.

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