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物理学実験

物理学実験を行う上での心得,物理学実験の行われかた,文系学生のための実験の特性について知ることができます。また,実験のテーマの開発についての基準を示しています。実験風景の写真や各実験テーマの説明を図表・写真を用いて説明しています。データの集計についても補足をしていますので,ご興味のあるかたはご覧ください。

実験テーマ一覧中,1-22番は以前から用意されていた実験テーマ,23-26番は「平成17-20年度日吉特色GP」で開発された実験テーマです。今回の大学教育推進プログラムで開発された実験テーマは本ページで随時公開していきます。

はじめに

物理学は基本法則を実験,観測で検証することにより成り立っています.物理学では基本法則を理解すると同時に,なぜそれが正しいのかという根拠を理解する必要があります.実験を行い,結果を求め,その意味を考察する過程を経験しないと,「科学的事実」とは何であるか,そしてその限界はどこにあるのか,といった面を理解しにくいと思います.これは学問として非常に重要な側面です.さらに,その理解が無いと自然科学を過度に信じたり,逆に極端に不信になりがちです.

エネルギー問題,地球温暖化問題,ナノテクノロジー,電子通信機器,などの現在重要な分野の多くに物理学が本質的に関わっています.文系理系に関わらず,誰でも一社会人としてこのような分野に関連する判断を下さねばならない場面に出会います.このような現在,自然科学を理解することの重要性は増しています.

近年,受身型の講義に対して参加型の講義の重要性が強調され,新しい講義形態も提唱されています.実験授業は従来から存在する参加型の講義の典型です.自分で手を動かして,実験をしなければ何も始まりません.さらに,実験を行うことにより抽象的に思われる物理の基本法則がどのように現実に反映されているか実感することができます.また,実験を行い結果を導き,理解することは充実感もあり楽しい経験でもあります.

物理学実験の行われかた

慶應義塾大学では 1949 年より,実験を含んだ文系学生のための講義科目を開講し続けています.その中での物理学実験の特徴について主な点をあげます.

講義と実験は組になっていて,実験と講義は隔週ごとに行われます.講義, 実験ともに2コマ,3時間です.半期で3単位の科目です.
自然科学の実験科目は選択科目です.文系学部では学生に自然科学系の科目を 6 か 8 単位履修することを卒業の条件として課していますが,実験科目を履修する必要は有りません.現状では,文系学生の 約 6~7割が自然科学の実験科目を履修しています.
講義内容は講師によって大幅に異なります.学生は自分で履修する内容を選択します.
実験では,学生は実験時間内に実験をしながらレポートを書き終えます.それを提出し,質疑応答を受けて実験を終了とします.
実験は題目を多く準備してあり,各講師が自分の講義内容に適した実験を採用します.
実験は通常 2人あるいは1人1組で行います.

文系学生のための実験の特性

文系学生の 1 年生から履修できる実験というと,簡単な実験,そしてレベル的にいわば「低い」実験が想定されがちですが,そうである必要は全くありません.実際,行っている実験は古典力学の簡単な実験から量子力学の実験まで様々です.理系学生に必要な 3,4 年での履修の前提となる基礎実験,また実験テクニックを覚えるための実験は文系学生には必要ありません.物理の基本的な概念を体験することができ,興味が湧く実験が理想的です.基本的な概念さえ説明から理解できるのであれば,理系学生が高学年で扱う内容の実験でも良いのです.最新のテーマでも古典的なテーマでも良いです.多少精度を犠牲にしても,学生が実験の仕組みとそこに現れる物理現象を理解できる方が望ましいです.精度を求めることや最新機材を用いることにより実験が「ブラックボックス」となってしまうことは避けなければなりません.

我々の用意した実験は,多少講師の説明を要する場合もありますが,どれも全ての学生が時間内に終えることができるものです.実験授業の困難さは,むしろ実験の内容を学生がどうすれば理解できるかということです.実験自体は指示通りに進めれば終わりますが,それだけでは結局は何をしていたか,また,それが物理学全体の中でどのような意味を持つかといったことは理解できません.レポートを書く際に考える必要が自然と生じ,理解を助けます.そして,提出時の質疑応答が理解には重要です.テキストの内容も細か過ぎては指示に従うだけになってしまいます.逆に指示を大雑把にしすぎると実験が困難になりすぎてしまいます.さらに,講義で物理の基本的な考え方について学んでいなければ,理解しようと思っても理解できるものではありません.

いわゆる「文系学生」の一つの特徴は理系教育を受けてきた学生から文系学生として特化してきた学生まで幅広くいることです.実験を行う際はこの幅広い層が興味を持って実施できるものでなければなりません.実験の経験がほとんど無い学生でも時間内に終えられるものでなければなりません.逆に,理系の教育を受けてきた学生でも面白いと感じる深さがなければなりません.これは,実際に現場で実験を監督している際に講師が学生ごとに調整するのも重要です.

実験のテーマの開発について

このような点を考慮して実験テーマを開発するにおいて以下のような基準を考慮しています.

内容は物理的観点から興味深いものであるのか?
内容は学生に理解できるのか?
困難さは適切か?
時間内に学生が終えることが可能か?
学生が十分安全に行えるか?
コスト的に適切か?
スペース的に可能か?

実験を行う難易度は実験種目によって異なり,これはある程度意図的です.実験の難易度は以下に数例あげるように様々な方法によって調整されています.

テキストでどこまで説明するか? 特に実験結果の例を含めるとかなり難易度が下がります.
実験準備をどこまでするか? 例えば機材を既にセットアップした状況で渡すなど.準備をしすぎてしまうとブラックボックス化してしまい,学生は何をしているかを理解しにくくなります.
教員がどこまで教えるか? 実験の進行状況により,必要だと思われる学生にははっきりとしたヒントを与えたり,逆に自分で考える余裕がある学生にはあまり補助をしないようにしています.

実験の意図,実験で伝えたいポイント,また実験時間の制約などを考慮して実験のバランスを取ります.

最後に

文系学生が実験を行うことは困難だということは有りません.今まで学生に接してきて実験ができない学生はいません.実験を行うにあたって一番重要であり,しかし困難でもあるのは実験でどのような物理法則を確かめたのかを理解することです.特に,実験を自動化しすぎてしまうと,ブラックボックスと化してしまい,実験は簡単に終わるが学生は何を行ったかわからない,という事態が生じやすくなります.

実験テーマ

テーマ名をクリックすることで各実験テーマのページに飛びます。

1.モンテカルロ法

内容:

乱数サイを振ってランダムなx,y 座標を決定し,グラフ用紙にプロットして,面積と点の数の関係から,π,√2 ,√3 の近似値を求める。

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2.分子の大きさとアボガドロ数

内容:

水面上に直鎖上構造を有するオレイン酸の薄膜を作り,その拡がりの面積の測定から非常に小さな分子の大きさと,極めて大きい分子数(アボガドロ数)を決定する。

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3.ノギスとマイクロメーター

内容:

1つの球の直径を,ノギスとマイクロメーターで測定し,それぞれの場合の体積を計算して結果を比較し,測定誤差の精度を検討する。

4.てんびん

内容:

試料の質量をてんびんを用いてミリグラムの1/10 まで正確に測定する。

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5.たまざし(球指)

内容:

たまざしを用いて与えられた球面の曲率半径を測定する。

6.テープの面積

内容:

遊動顕微鏡を使ってテープの幅を測定し,巻尺で長さを計り,テープの面積を誤差を含めて求める。

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7.重力加速度

内容:

単振子の周期を測定して重力加速度を求める。

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8.ガラスと水の中の光速度

内容:

遊動顕微鏡を使って、ガラスと水の屈折率を測定し物質中の光速度を求める。

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9.連成振子

内容:

2つの単振子からなる連成振子を用いて,共振によるエネルギー授受のありさまを観察し,エネルギー伝達の周期を測定し,振動・共振について体験的に理解する。

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10.気圧計

内容:

フォルタンの気圧計によって水銀柱の高さを測定し,水銀の密度などに対する温度補正や,重力補正を加えて測定地点における気圧を求める。

11.温度計の補正

内容: 水の氷点と沸点における温度計の示度を測定し,正しい温度を求めるための補正グラフをつくり,それを用いて実験室内の正しい気温を求める。

12.固体の弾性

内容:

水平な棒の中央に荷重をかけたときに生じる棒のたわみの量を測定して,棒の弾性の強さを表すヤング率を求める。

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13.空気の振動と音速

内容:

ガラス棒を摩擦して伸縮の振動を起こし,ガラス管の中の空気に,ガラス棒と同じ振動数の定常波を起こし,節に集まるガラス中の粉の間隔から,空気中の音速を求める。

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14.顕微鏡の倍率

内容:

レンズの働きと顕微鏡の構造を学び,物体の大きさと像の大きさを,直接比較することによって,顕微鏡の倍率を求める。

15.ブリッジ回路と電気抵抗

内容:

ブリッジ回路を用いて,与えられた試料の電気抵抗を求める。

16.電気抵抗の温度変化

内容:

金属および半導体の電気抵抗を測定し,それぞれの電気抵抗が温度によってどのように変化するかを調べる。

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17.電流と熱

内容:

物体に電流を流したとき,熱が発生することを確かめ,発生したジュール熱によって水の比熱を算出する。

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18.摩擦と熱

内容:

力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されることを通じて,エネルギー保存の法則を確かめる。

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19.固体の比熱

内容:

混合法により固体の比熱を測定する。

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20.電子の電荷と質量の比

内容:

電子は電荷を持っているので,磁界中をローレンツ力を受けて円運動する。遠心力とローレンツ力が釣り合うことから,電子の電荷と質量の比を求める。

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21.光と電子

内容:

光電効果の実験を通じて,光子の概念を理解し,プランク定数を決定する。

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22.光の干渉

内容:

レーザー光源を使って,光の回折・干渉という現象を実感し,レーザー光の波長とスリット・回折格子との関係を理解する。

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23.ブラウン運動と原子の実在

内容:

水中のラテックス粒子のブラウン運動の様子を録画し,粒子の移動距離からアボガドロ数を求める。

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24.光速の直接測定

内容:

レーザー光源より発したパルスレーザーをオシロスコープで観測し,光速度を直接測定する。

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25.量子力学と原子のスペクトル

内容:

原子の輝線スペクトルを分光器を用いて観測し,原子のエネルギー準位間のエネルギーを求める。

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26.素電荷の測定(ミリカンの実験)

内容:

帯電した油滴の自由落下速度と電圧をかけたときの上昇速度からその油滴の電荷を測定し,素電荷(電気素量)を求める。

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補足

データの集計について

物理量の測定値における偶然誤差を減らすためには、測定の回数を増やすことが有効である。しかしながら、授業においては時間的制約があるため、測定回数は数回(多くても10回程度)に限られてしまう。そこで、当プロジェクトでは、長年の授業により蓄積された、学生レポートの集計作業および簡単な統計解析を行った。この結果は、実際の実験に起こりうる誤差、精度、およびに実験の問題点を知るための重要な手がかりになる。

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