酸性温泉のメイオベントス研究
雲仙において酸性温泉という非常に厳しい環境に生息するメイオベントス(微小底生動物)の分類・生態学的研究を行う。
目的
長崎県雲仙の温泉から昭和12年(1937年)に一度だけ記載されたオンセンクマムシ(緩歩動物門・中クマムシ綱)は、生息地の極限的な環境(40℃、pH 2)と、形態の特殊性から1種のみで中クマムシ綱が設立され、分類学的にも生態学的にも重要であるが、再発見がされないまま現在では疑問種の扱いとなっている。この研究プロジェクトでは、オンセンクマムシの再発見を期待しながら、酸性温泉という極限環境のメイオベントス調査を行ってきた。これまでの研究により興味深いワムシ類の生息が確認されているため、今回はそれに的を絞ってサンプリングを行い、酸性温泉特異的なワムシの分類学的な解明を目的とする。
内容
雲仙に点在する多くの温泉で水温とpHを測定し、岩に付着する藻類や堆積物を採取する。雲仙の公共施設の1室を仮設実験室として利用し、試料を実体顕微鏡下でソーティングして、ワムシ類を含む微小動物を集める。ワムシ類は生体の観察が特に重要であるため、まず現地での光学顕微鏡による生体画像の獲得に専念し、また遺伝子解析用試料を核酸保存液中に回収する。形態標本作成のため一部はホルマリン溶液に保存する。研究室において、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡による形態観察を行い、またいくつかの遺伝子配列の比較による系統解析を行い、それらのデータをもとに記載論文を作成する。対象となるワムシのうち、Lecane sp.は奇しくもオンセンクマムシと同時代に記載されたLecane solfatara (Hauer, 1938)と非常によく似ており、しかもそれは北スマトラの酸性温泉に局在していたのである。その後の詳しい再記載はされないままで、その生態的な面白さにも気づかれないまま今日に至っている。雲仙とスマトラの酸性温泉というよく似た環境によく似たワムシが生息していることには、生物学的にどんな意味が隠されているのだろうか。それを解き明かすため、本研究は遂行される。