棘皮動物イトマキヒトデにおける細胞外小胞を介した免疫制御機構
イトマキヒトデ成体の体腔液中に大量に存在する細胞外小胞が、成体の細胞性免疫応答に対してどのように機能しているかを探る。
目的
イトマキヒトデの成体は広大な体腔を有しており、その体腔を満たす体腔液には体腔細胞と呼ばれる免疫細胞が含まれている。体腔細胞による免疫応答は、異物に対する凝集塊の形成によって評価できる。凝集塊形成を伴う免疫応答の実現には高度な細胞間コミュニケーションが必要であるが、体腔細胞が、広大な体腔を満たす体腔液中でどのようにして効率的な情報伝達を行っているかは不明である。近年、細胞間の情報伝達を媒介する手段として、細胞外小胞と呼ばれる、細胞が分泌するナノメーターサイズの小胞が注目されている。我々は先行研究において、体腔液中に細胞外小胞が大量に含まれること、体腔細胞が細胞外小胞を分泌すること、細胞外小胞非存在下では体腔細胞が形成する凝集塊のサイズが小さくなることを見出した。これらの事実は、細胞外小胞が体腔細胞による免疫応答を制御している可能性を強く示唆している。本研究では、細胞外小胞が、体腔細胞における免疫関連遺伝子の発現を制御する可能性を探る。
内容
2024年度の本研究プロジェクトにおいて、体腔細胞による細胞外小胞の分泌動態を詳細に調べた。その結果、糸状仮足からミグラソームと呼ばれる細胞外小胞が形成されていることが明らかになった。一方、驚いたことに、葉状仮足からは比較的大きな無核の断片が形成され、この無核断片から細胞外小胞が形成されていることが明らかとなった。この無核の細胞断片の形成は、哺乳類における血小板形成機構とよく似ている。そこで本研究では、体腔細胞が形成する無核断片と細胞外小胞のプロテオームを解析することで、体腔細胞による無核断片の形成を介した細胞外小胞分泌過程と、哺乳類の血小板形成機構及び血小板による細胞外小胞分泌過程との類似性を検証する。特に、免疫関連分子に着目し、プロテーオムデータを用いて無核断片の機能を予測するとともに、無核断片に由来する細胞外小胞の性質を特徴づける。