自然科学研究教育センター開所記念シンポジウム 終了
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- 日時 :
- 2009年11月20日(金)15:59
13:00~17:40
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- 会場 :
- 日吉キャンパス 来往舎1階シンポジウムスペース
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- 主催 :
- 慶應義塾大学 自然科学研究教育センター
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- 参加費 :
- 無料 ( 学生の参加歓迎 )
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- 対象 :
- 学生・教職員・一般
このイベントは終了しました
趣旨
シンポジウムでは、講師を外部から招いて講演していただき、各専門領域のトピックスをわかりやすく解説していただく。それを通して、幅広い分野にまたがる自然科学の多様性と相互の関連性について概観する。また、研究および教育について自然科学の現状や問題点などを分野横断的に議論する場としたい。
プログラム
13:00~13:10
開会のあいさつ
長谷山 彰 氏(
慶應義塾研究担当常任理事
)
13:10~13:30 所長講演
「自然科学研究教育センターについて」
青木 健一郎 氏(慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 所長,
日吉物理学教室
,
経済学部
・教授)
自然科学研究教育センターは今年の4月1日に設立されました.センター趣旨と現状について説明します.さらに,これからセンターの目指していくものについて話します.
13:30~14:25 講演1
「地層から読み解く過去の地震と津波」
藤原 治 氏(独立行政法人 産業技術総合研究所、
活断層・地震研究センター 主任研究員
)
巨大地震や津波は希な現象であるが,一度発生すると非常に大きな自然災害となる.2004年インド洋大津波がその最近の事例で,これはプレートの沈み込み境界の海溝で発生した海溝型地震によるものである.このような低頻度巨大災害は,人間の一生に比べて比較的稀な現象であるため我々の経験が少なく,その実態について不明な点が多い.また,巨大災害の経験から得た教訓は,次の巨大災害までの間に人々の記憶から失われがちである.このことが低頻度巨大災害による被害を拡大させる大きな要因である.将来発生し得る地震や津波の規模と,その結果発生する災害を予測することが,防災・減災対策の第一歩である.
日本列島は海溝などに囲まれており,関東地震や東海地震に代表される海溝型地震と津波に繰り返し襲われてきた.沿岸部に人口と産業が集中している日本列島では,こうした地震や津波による大きな被害が予想される.その防災・減災対策には,過去の地震や津波の履歴を詳しく解読し,何時,何処で,どのような地震や津波が発生したかを知ることがまず必要である.
日本には過去千数百年にわたる歴史記録があり,特に江戸時代以降については地震や津波に関する記述も豊富である.しかし,それだけでは100年以上の間隔で繰り返す海溝型地震と津波の履歴を解明することは難しい.それを解決する方策として,最近発展してきた「津波堆積物」の研究を紹介する.
14:25~15:20 講演2
「総合の時代と帰納的思考」
団 まりな 氏(階層生物学研究所責任研究員)
現代の私たちは、歴史上もっとも豊かな時代を謳歌している。しかし、同時に、豊かさの弊害をも切実に感じ取っている。増えているように見える天変地異は、本当に私たちが引き起こしているのか。地球は本当に限界に近づいているのか。
この状況は、私たち人間が知的好奇心やさまざまな欲望を満たそうとして、知恵の限りを尽くした結果に他ならない。その中にあって私たち歴代の自然科学者は、事物を分析し、さまざまな自然現象の仕組みを精緻に解明して、文明の発展の礎を築いてきた。しかし、その理解をふたたびあるがままの自然の中に戻す努力を怠ったことが、自然のプラス面だけを享受し、マイナス面に目をつぶる結果を生み、巡り巡って世界の現状を生み出す一因につながってしまった。
世界のあちこちから噴出するトラブルは互いに複雑に絡み合い、容易にその原因を見せてはくれない。多くの要因を重ね合わせ、それらの原因をつなげて検討する以外に、これらの問題にアプローチする方法はない。このときに役立つのが帰納的思考である。
「百人一首」の歌々の裏に横たわる疑問や不自然さを注意深く検討し、この百首がかなでる藤原定家の秘めた想いを見抜いた人物がいる(織田正吉著「絢爛たる暗号」集英社、1978年)。ここには証明不能だが、確固とした事実がある。この例を足場に、自然科学や文化一般の問題における帰納的思考の有用性を論じる。
15:40~16:35 講演3
「アインシュタインと宇宙の謎」
江口 徹 氏(
京都大学基礎物理学研究所
所長・教授)
1905年にアインシュタインは物理学史上に残る有名な論文を次々に3つ発表しました。このため1905年は奇跡の年とも呼ばれています。これら3つの論文はそれぞれ、特殊相対性理論、量子力学、統計力学へと発展して20世紀の物理学の柱を形成しました。
しかし、アインシュタインの最も重要な仕事は何かと問われると、それは重力の力を時空の幾何学で説明した一般相対性理論になるでしょう。一般相対論は、特殊相対論や量子力学など20世紀を通じてその正しさが確立された理論とは違って、まだその一部には未完成なところがあり、今世紀における中心的な研究課題となっています。特に、すべての物質が一点に集中した宇宙の始まりや、光も逃げだせないブラックホールの時空などはミステリーに包まれており、一般相対論には多くの謎が残されています。
今、この謎に挑戦しようとしているのが、素粒子を1次元的に広がった紐と考える超弦理論(superstring theory)です。超弦理論にはこの10数年間で著しい進展があり、理論の理解が大きく進みましたが、特にブラックホールの量子状態を一つずつ数え上げることに成功しています。
この講演では、アインシュタインの夢を実現しようとしている超弦理論がどこまで進展しているのか、残された困難は何かなどについて紹介したいと思います。
16:35~17:30 講演4
「バリアフリー・ユニバーサルデザインへの人間科学からのアプ ローチーー主観と客観、基礎と応用、大学と社会の架け橋を目指し た取り組みーー」
中野 泰志 氏(慶應義塾大学 自然科学研究教育センター・
心理学教室
・
経済学部
・教授)
現在、我が国の少子化・高齢化は加速し、高齢化率は世界でも最高に近い水準に達している。平成20年版白書では、障害者は724万人、高齢者は2,746万人に達している。このように、人口比から考えただけでも、障害者・高齢者は、すでにマイノリティーグループとは呼べない規模に増大している。商品やサービス等の開発等のビジネス分野においても、マイノリティとは言えなくなった障害者・高齢者を無視することはできなくなりつつあり、各企業が専門の部門を立ち上げて、研究・開発を行っている。
また、社会政策分野においても、米国の改正リハビリテーション法508 条、Americans with Disabilities Actに見るように障害者の人権に配慮した社会システムが注目を集めている。日本でも、障害者自立支援法、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」、発達障害者支援法等の法改正により、障害者・高齢者を考慮した社会システムが構築されつつある。さらに、国連による障害者権利条約等を考慮すれば、あらゆる社会参加の場面においてバリアフリーやユニバーサルデザイン(UD)の視点を持つことが不可欠だと言える。
本報告では、障害者や高齢者の多様なニーズに対する人間科学の 観点からのバリアフリー・UD研究の意義と楽しさについて紹介す る。また、障害者や高齢者の主観をどう客観化するか、基礎研究を どう応用につなげるか、大学の若手研究者と社会との接点をいかに 形成するかについて問題提起を行う。
17:30~17:40
閉会のあいさつ
大場 茂 氏(慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 副所長,日吉化学教室,
文学部
・教授)
センター主催のシンポジウム・講演会について
当センターの活動の一環として、シンポジウム・講演会を年3〜4回程度開催しています。その目的は、多分野にまたがる自然科学の相互理解を深め、研究の推進と教育の質の向上を図ることにあります。参加費は無料です。特に指定のない場合、聴講の対象に制限はなく、事前申込は不要です。ただし、取材の場合は事前に許可を取って下さい。
天災・交通事情など予期せぬ事態により変更・中止となる場合がございます。
その場合、本ウェブサイトで告知しますので、事前にご確認下さい。
問合せ先:慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 事務局 (日吉キャンパス来往舎内)
〒223-8521 横浜市港北区日吉 4-1-1
Tel: 045-566-1111(直通) 045-563-1111(代表) 内線 33016
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