2023年自然科学研究教育センター・シンポジウム 終了
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- 日時 :
- 2023年12月02日(土)13:00〜16:50
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- 会場 :
- 日吉キャンパス 第4校舎B棟 J11番教室
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- 主催 :
- 慶應義塾大学 自然科学研究教育センター
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- 講師 :
- 岸 由二 氏
慶應義塾大学 名誉教授
磯辺 篤彦 氏
九州大学 応用力学研究所 教授(主幹教授)、海洋プラスチック研究センター/センター長
吉田 尚弘 氏
東京工業大学 名誉教授、東京工業大学地球生命研究所 フェロー、情報通信研究機構 上席客員研究員
武井 良修
慶應義塾大学 法学部准教授
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- 参加費 :
- 無料(申込不要)
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- 対象 :
- 一般・学生・教職員
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プログラム
13:00-13:10 開会挨拶 岡田英史(本塾常任理事)
13:10-13:50 講演1. 『小網代は保全も管理も流域思考』
岸由二 氏(慶應義塾大学 名誉教授)
13:50-14:30 講演2. 『海洋プラスチック研究の最前線と今後の展開』
磯辺篤彦 氏(九州大学 応用力学研究所 教授(主幹教授)、海洋プラスチック研究センター/センター長)
(休憩 15分)
14:45-15:25 講演3. 『安定同位体分子を計測して地球環境を理解する』
吉田尚弘 氏(東京工業大学 名誉教授、東京工業大学地球生命研究所 フェロー、情報通信研究機構 上席客員研究員)
15:25-16:05 講演4. 『環境問題と国際法』
武井良修(慶應義塾大学 法学部 准教授)
(休憩 10分)
16:15-16:45 総合質疑討論
16:45-16:50 閉会挨拶 岡本昌樹(センター所長・文学部教授)
講演要旨
『小網代は保全も管理も流域思考』(岸由二 氏)
私たちの都市文明は、気候変動による水土砂災害の拡大や、生物多様性の危機を焦点とする生命圏危機に直面している。長期にわたり未曽有の規模になるとも危惧されているこの危機に、私たちの日常はどのように対応してゆくことができるのか、緩和策、適応策の両面にわたり、様々な主体により、多様な定言、実践が続いている。国や自治体の審議会委員、市民活動をとおして、日本国首都圏の水土砂災害問題や、環境保全の課題に長く関与してきた私は、降雨のある生命圏大地を区分する水循環の単位地形である流域地形、流域生態系を単位とした環境保全、防災対応こそ、都市がその日常において日々推進すべき生命圏適応の基本活動になると考えるにいたり、流域思考の防災・環境保全を提案し、実践して今日に至っている。本日は、そんなビジョンと経験にもとづいて、神奈川県三浦半島の相模湾臨海地の一角、小網代の谷(浦の川流域)において、40年にわたって実践推進されてきた保全・管理活動を紹介したい。流域地形・流域生態系への注目を鍵として、大規模開発計画にどのような代案が提示されたか、その代案にそって実現された流域生態系単位の保全の現状、そして課題はどのようなものか、さらに、小網代の谷の流域生態系保全と三浦の海の健全の関連についても、話題を提供する。
『海洋プラスチック研究の最前線と今後の展開』(磯辺篤彦 氏)
過去の約60年間で約2500万トンのプラスチックごみが海に流出したと考えられる。この行方を考えてみよう。全地球の海洋を対象としたコンピュータ・シミュレーション結果である (Isobe & Iwasaki, 2022)。2500万トンのプラスチックごみのうち、23.4%(600万トン)はプラスチックごみとして海岸に漂着しており、3%弱の約70万トンは海を漂流している。また、約7%(175万トン)はマイクロプラスチックに破砕されたのち、いまも世界の海で漂流と漂着を繰り返している。そして残りは、マイクロプラスチックに破砕したのち海水より重い素材のため海底に沈むか(36.9%)、たとえ海水より軽い素材であっても、生物付着などを経て重くなり海洋表層から姿を消したと推計された(23.4%)。
いま世界の研究者が標準的に採用している海表面近くの曳網調査では、この残りの約67%(1650万トン)は観測できない。採取できないほど細かく破砕が進んでのち、なお海面近くを浮いているか、浮力を失って海底に沈んだか、あるいは海岸砂に吸収されたか、いずれにせよ、これら「ミッシング・プラスチック」の蓄積量は、これからも世界の海域のどこかで増え続け、この海のミッシング・プラスチックや、陸で行方不明となったプラスチックの行方と環境影響は今後の研究課題である。
『安定同位体分子を計測して地球環境を理解する』(吉田尚弘 氏)
環境を理解するために、種々の安定同位体分子の計測法を開発し、適用してきた環境物質の起源や生物と環境の相互作用を簡潔にお話します。図にあるように、地球温暖化ガス自体、目に見えませんが、大気、海洋、陸域を問わず循環する環境分子が本来持っている情報を“色”のように可視化して調べたいと考えています。
ご存知のように全ての物質は原子、分子からできています。原子には118種類の元素があり、全ての元素は同位体からできています。同位体は約3000種あり、そのうち自然存在度が高い安定同位体は1割ほどで、残りの9割は自然存在度が低い放射性同位体です。そして、全ての物質は分子からできていて、全ての分子は同位体の組合せで多数の異なる同位体分子からできています。従って、全ての物質は同位体分子からできている、と言えますが、これまで測ることができず、今もほとんどが未開拓です。
環境の物質循環の多くは複雑なので、環境分子の濃度だけで、その分子の起源や履歴を理解するのは難しい。同位体を測ると一つ別な軸ができ、白黒写真のように少し詳しく理解することができます。同位体分子を測ることができると、カラー写真のように正確に精密に理解することが期待されます。本講演では安定同位体、安定同位体分子の自然存在度を計測して、水や地球温暖化ガスなど環境物質の循環、植物、動物そしてヒトの食性、食材のトレーサビリティ、生物と環境の相互作用、生合成・代謝系などに応用した例を概観します。
『環境問題と国際法』(武井良修)
私たちが現在直面している環境問題は、大気・海洋・土壌の汚染、資源の枯渇、気候変動など多種多様です。多くの環境問題は、国家の国境の内側で完結しておらず、一つの国が単独で対応することは容易ではありません。そのため、環境保護の分野では国際協力が不可欠であり、国家間の関係を規律する法である国際法が大きな役割を果たしています。しかし、国際社会には、すべての国が守らなければならないルールを一方的に決定することのできる「世界政府」のような存在はありません。国際法は、相互に対等な国家間の合意に基づいて成立するため、異なる政治的・経済的・社会的・文化的背景を持つ200近い国が合意できるルールの形成は容易ではありません。また、ひとたびルールが作られたとしても、国際社会の分権的な性質を反映して、違反者に対する法執行には限界があります。この講演では、気候変動、海洋プラスチック汚染、海洋生物多様性といった地球環境に関連する様々な問題を例に挙げながら、環境問題に関する国際法の特徴や克服すべき点を検討することにより、我々は国際法を通してどのように地球環境問題に対処していくことができるのかを考えていきます。
プロフィール
専門:海洋物理学
学位:博士(理学)
1986年 愛媛大学大学院 工学研究科 修士課程 修了
1994年 九州大学大学院 総合理工学研究科 准教授
2008年 愛媛大学 沿岸環境科学研究センター 教授
2014年 九州大学 応用力学研究所 教授
受賞:
2018年 環境大臣賞 環境保全功労者表彰
2019年 内閣総理大臣賞 海洋立国推進功労者表彰
2020年 科学技術賞(研究部門) 文部科学大臣表彰
2020年 西日本文化賞(西日本新聞社)
2021年 九州大学/主幹教授の称号授与
近著:「海洋プラスチック問題の真実 ―マイクロプラスチックの実態と未来予測」(化学同人/DOJIN選書)
センター主催のシンポジウム・講演会について
当センターの活動の一環として、シンポジウム・講演会を年3〜4回程度開催しています。その目的は、多分野にまたがる自然科学の相互理解を深め、研究の推進と教育の質の向上を図ることにあります。参加費は無料です。特に指定のない場合、聴講の対象に制限はなく、事前申込は不要です。ただし、取材の場合は事前に許可を取って下さい。
天災・交通事情など予期せぬ事態により変更・中止となる場合がございます。
その場合、本ウェブサイトで告知しますので、事前にご確認下さい。
問合せ先:慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 事務局 (日吉キャンパス来往舎内)
〒223-8521 横浜市港北区日吉 4-1-1
Tel: 045-566-1111(直通) 045-563-1111(代表) 内線 33016
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