2016年自然科学研究教育センター・シンポジウム 終了
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- 日時 :
- 2016年09月24日(土)13:15〜17:35
13:15~17:35
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- 会場 :
- 日吉キャンパス 第4校舎J11教室
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- 主催 :
- 慶應義塾大学 自然科学研究教育センター
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- 講師 :
- 平田 直 氏
東京大学 地震研究所 地震予知研究センター長・教授
井出 哲 氏
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授
野上 健治 氏
東京工業大学 理学院 火山流体研究センター 教授
山元 孝広 氏
産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 総括研究主幹
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- 参加費 :
- 無料(申込不要)
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- 対象 :
- 一般・学生・教職員
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プログラム
13:15-13:25 開会挨拶 長谷山 彰(本塾常任理事・文学部教授)
13:25-14:20 講演1. 『日本列島を襲う大地震 ―2016年熊本地震と将来の巨大地震―』
平田 直 氏(東京大学 地震研究所 地震予知研究センター長・教授)
14:20-15:15 講演2. 『ゆっくり地震の謎』
井出 哲 氏(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授)
(休憩 20分)
15:35-16:30 講演3. 『地球化学的手法による火山観測研究』
野上 健治 氏(東京工業大学 理学院 火山流体研究センター 教授)
16:30-17:25 講演4. 『富士山噴火で想定される首都圏の火山災害』
山元 孝広 氏(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 総括研究主幹)
17:25-17:35 閉会挨拶 金子 洋之(所長・文学部教授)
講演要旨
『日本列島を襲う大地震-2016年熊本地震と将来の巨大地震-』 (平田 直 氏)
2016年4月に熊本地方を襲った熊本地震は,日本が地震列島であることを改めて認識させた。熊本県上益城郡益城町では,4月14日午後9時26分のマグニチュード(M)6.5の地震と,4月16日午前1時25分のM7.3の地震で,震度7の揺れが2度観測された。震度7が観測されたのは2011年東北地方太平洋沖地震以来のことで,28時間を経て同じ場所で震度7が観測されたのは,観測史上初めてである。
日本は,世界的にみて地震の多い地域であり,熊本で発生したようなM7程度の地震は,日本とその周辺海域部では,毎年1~2回は発生している。首都圏の下には,陸のプレート,その下に二つの海洋プレート(フィリピン海プレートと太平洋プレート)があり,お互いに力を及ぼし合っている。このため,首都圏でM7程度の地震が,今後30年間に発生する確率は70%と大変高い。さらに,西南日本の太平洋沖の南海トラフでは,M8~9の超巨大地震が発生する可能性が高い。
わが国の都市部は,土地の成り立ちと人口・経済の集中によって,震災による被害リスクは大変高い。国や自治体は,大地震発生の可能性,震災の規模と様相に関して,科学的知見に基づいた推計を公表し,それに対する基本的な対応策も示している。この知識を,個人や企業が,それぞれの立場で活用することで,震災の被害を軽減する必要がある。
『ゆっくり地震の謎』 (井出 哲 氏)
南海トラフから西日本下に沈みこんでいるフィリピン海プレートの運動は,マグニチュード9クラスの巨大地震を過去に何度も繰り返してきた。この沈み込んだプレートの境界で,今世紀初頭に奇妙な現象が発見された。プレート境界が時々ギクシャクと少しずつすべるのである。この現象は,数分,数時間,ときには数ヶ月続き,長く続くとGPSでも観測される。これがゆっくり地震(スロー地震)と呼ばれる現象である。西日本での発見直後から,世界各地で類似現象の発見報告が相次ぎ,現在では主に環太平洋地域の10カ国以上で観察,研究されている。一般的にゆっくり地震は過去に発生した巨大地震の震源域を取り囲むように発生する。観測限界ぎりぎりの小さな現象なので,それ自体が災害を引き起こすことはありえないが,ゆっくり地震の発生によって巨大地震へのプロセスが準備されていると考えられる。実際に巨大地震発生直前にゆっくり地震が観察された例もある。ゆっくり地震は普通の地震に比べると,周期性がはっきりしており,また潮汐などの小さな変化でコントロールされやすいので,予測しやすい。ゆっくり地震の支配メカニズムを解明できれば,普通の地震の予測に役立つ可能性もある。但し,普通の地震の法則はゆっくり地震には当てはまらない。その鍵を握るのは地下水の動きや地下の岩石の流動変形ともいわれる。講演では現在,地震発生メカニズム解明の鍵を握ると考えられている,ゆっくり地震研究の最先端を紹介する。
『地球化学的手法による火山観測研究』 (野上 健治 氏)
世界的にも火山活動と地震活動がきわめて活発な環境にある日本列島とその周辺海域には活火山が110座あり,これは全世界の活火山の約7%に相当する。これらは国立公園・国定公園内にあるため観光地化しているところも多く,小規模噴火でも大きな災害になる可能性が高い。また,大規模な噴火が発生すれば高速鉄道・道路・航空網は広範囲にその影響を避けられず,市民生活に与えるインパクトは甚大である。従って,火山活動の継続的な観測・研究は,国民の生命・財産を火山災害から守る為に極めて重要なミッションである。
火山活動は火山体内部からの物質と熱エネルギーの持続的放出現象であると定義できる。火山ガスはマグマから放出される物質の中で最も速く地表に達するため,放出される物質の化学成分や量比の変化,温度や放出量等を捉える地球化学的観測によって火山活動について多くの情報が得られる。マグマが直接的関与しない水蒸気爆発は,有感地震や地殻変動などの前兆現象がマグマ噴火と比べて極めて微弱であるため,その予知は今でも噴火予知研究における難問の一つであるが,草津白根山や十勝岳,雌阿寒岳,雲仙普賢岳,有珠山,口永良部島などで長年にわたる地道な繰り返し観測によって火山活動の活発化や噴火に先行する組成変化が捉えられている。火山活動の“変化”を捉え,噴火を予測するためには静穏期のデータが非常に重要で,地道な観測が不可欠であることは論を俟たない。
『富士山噴火で想定される首都圏の火山災害』 (山元 孝広 氏)
約300年前の江戸時代宝永年間(1707年)に噴火を起こした富士山は活火山であり,いずれまた噴火することは確実である。表面的には噴火の兆候は見られないが,例えば2000年秋にマグマの動きを示す特有な低周波の地震活動が地下約10kmで頻発したように,火山活動自体は停止していない。
富士山の噴火履歴を詳細に復元すると,1千年から数千年間継続する活動期が設定でき,活動期内には類似した噴火活動が繰り返されてきている。その一方で,活動期が終わると卓越する噴火様式も変化し,しかもその変化に特定の傾向が認めがたい特徴がある。奈良・平安時代には数十年おきに山腹割れ目噴火による溶岩流出が繰り返されていたが,AD1707年の爆発的な宝永噴火は奈良・平安時代の活動とは全く別種のものであった。すなわち,富士山の活動期は全く新しいものに切り替わったばかりであり,現在は次の噴火様式を予測することが極めて困難な時期に当たっている。
首都圏の火山災害で最も警戒するべきは,宝永のような爆発的噴火による大規模降灰である。僅か数mm厚の降灰量で鉄道は停止し,1cm厚で道路途絶が起き始める。また,従来の被害想定で過小評価されているのが電力への影響である。東京湾岸部に集中する東京電力の火力発電所群は,宝永規模の噴火が標準的な上空西風時に起きた場合には,同時に被災する可能性が極めて高い。その多くは外気の吸入が必要なコンバインドサイクル発電であり,早急な対策が必要であろう。
プロフィール
センター主催のシンポジウム・講演会について
当センターの活動の一環として、シンポジウム・講演会を年3〜4回程度開催しています。その目的は、多分野にまたがる自然科学の相互理解を深め、研究の推進と教育の質の向上を図ることにあります。参加費は無料です。特に指定のない場合、聴講の対象に制限はなく、事前申込は不要です。ただし、取材の場合は事前に許可を取って下さい。
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