2017年自然科学研究教育センター・シンポジウム 終了
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- 日時 :
- 2017年09月30日(土)13:15〜17:30
13:15~17:30
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- 会場 :
- 日吉キャンパス 独立館 DB201番教室
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- 講師 :
- 江守 正多 氏
国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長
加藤 輝之 氏
気象庁観測部観測課観測システム運用室長
田中 豊 氏
日本CCS調査株式会社 技術企画部長
木所 英昭 氏
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 東北区水産研究所 資源管理部 浮魚・いか資源グループ長
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- 参加費 :
- 無料(申込不要)
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- 対象 :
- 一般・学生・教職員
このイベントは終了しました
プログラム
13:15-13:25 開会挨拶 鈴村 直樹 (本塾常任理事・経済学部教授)
13:25-14:10 講演1. 『地球温暖化と私たちの未来』
江守 正多 氏(国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長)
14:10-14:55 講演2. 『大雨・竜巻の発生要因とその気候変動・将来予測』
加藤 輝之 氏(気象庁観測部観測課観測システム運用室長)
(休憩 20分)
15:15-16:00 講演3. 『一歩進んだ日本初のCO
2削減技術 -海底下貯留実証試験-』
田中 豊 氏(日本CCS調査株式会社 技術企画部長)
16:00-16:45 講演4. 『気候変動と漁業資源 -温暖化による産地や旬の変化-』
木所 英昭 氏(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 東北区水産研究所 資源管理部 浮魚・いか資源グループ長)
(休憩 10分)
16:55-17:25 総合質疑討論
17:25-17:30 閉会挨拶 金子 洋之(所長・文学部教授)
講演要旨
『地球温暖化と私たちの未来』(江守 正多 氏)
過去150年程度の間に世界平均気温は約1℃上昇した。その主な原因は人間活動に伴う大気中の温室効果ガス増加であると考えられる。気温上昇に伴い,海面上昇,氷床融解,熱波や大雨などの極端な気象の頻度・規模の増加が生じており,人間社会および生態系に様々なリスクをもたらしつつある。
一昨年末に国連気候変動枠組条約のCOP21で採択された「パリ協定」で,世界平均気温上昇を産業化以前を基準として2℃より十分低く保ち,さらに1.5℃より低く抑える努力を追及することが合意された。これを実現するために,世界の温室効果ガス排出量を今世紀後半に正味でほぼゼロにすることも合意された。温室効果ガス排出の主要部分はエネルギー起源の二酸化炭素であるから,これは化石燃料に依存しない社会(脱炭素社会)を今世紀中に実現するという国際社会の決意を意味している。
では,はたしてそんなことが本当に可能だろうか。また,なぜ「1.5℃」や「2℃」を目指す必要があるのだろうか。米国のトランプ政権がパリ協定からの離脱を表明したが,その影響をどう捉えるべきだろうか。
本講演では,地球温暖化の現状,将来予測,リスクについての科学的な評価を概観した後,脱炭素という課題に私たちがどう向き合っていくべきかを考える。
『大雨・竜巻の発生要因とその気候変動・将来予測』(加藤 輝之 氏)
異常気象という言葉を聞いて最初に連想されるのが,近年大雨が増え,それにより洪水や土砂崩れなどの顕著な災害が頻発しているという報道ではないでしょうか。本講演では,大雨に加えて,竜巻の発生メカニズムについて,天気予報でよく用いられている「大気状態が不安定」とはどういった条件なのかを皮切りに,積乱雲の発生・発達条件に着目して解説し,日本における大雨・竜巻の現在までの発生数の推移および将来予測について紹介します。
「大気状態が不安定」になるときは主として,地上と上空の温度差が大きくなることによって説明されます。しかし,大雨や竜巻は積乱雲にともなって発生するので,単に上下の温度差だけでその発生を説明することはできません。なぜなら,積乱雲内では降水が生成され,その降水が大雨や竜巻の発生に直接関与するからです。すなわち,地上が暖かいだけではなく,非常に湿っていて大量の水蒸気を含んでいることが必要不可欠になるわけです。
空気中に含まれえる水蒸気の量は,1℃気温が上昇すると約7%,10℃上昇なら約2倍になります。将来予測では地上気温の上昇に着目されていますが,地上気温よりも上空の気温の方がより暖まる結果が出ています。気温だけに着目すると,将来は上下の温度差が小さくなり,大気状態は安定化されることになります。一方,大気下層に含まれえる水蒸気が増えることで,その安定化を凌駕して,大量の降水を作り出して積乱雲がより発達することが想定されます。このことは,大雨や竜巻の発生リスクが大きくなることを示唆しています。
『一歩進んだ日本初のCO 2削減技術 ―海底下貯留実証試験―』(田中 豊 氏)
CCS(二酸化炭素回収・貯留,Carbon dioxide Capture and Storage)は,火力発電所や工場などで発生する二酸化炭素(CO
2)を大気に排出せずに回収して,地下深くの安定した地層へ貯留する技術であり,化石燃料の利用によるCO
2排出量を削減するうえで重要な役割を果たすことができる。これは,既存の技術の組み合わせで実施可能であることから,再生可能エネルギーの利用拡大や,エネルギー利用の効率化等とともに地球温暖化対策の一つとして世界的に期待されている。
CCSの各ステップ(CO
2の分離・回収,圧入・貯留,ならびに監視)で必要となる要素技術の殆どは各種産業で既に使用されているものであり,ある程度成熟している。しかし,各要素技術を組み合わせた全体が一体システムとして機能することを実証する必要がある。また,貯留サイト選定指針など,各種指針や技術基準を確認・整備すること,さらに,将来的に国内でCCSを展開していくために,広く国民にCCSを知ってもらうとともに,安全・安定的にCO
2を貯留できることを理解してもらうことも重要である。
国が北海道苫小牧市で取り組んでいる苫小牧CCS実証試験では,2020年頃のCCS技術の実用化を目指して,実用化に対応できる技術レベルで安全かつ安定的にCCSが実施できることの実証を目的としており,年間10万トン以上の規模でCO
2を回収,圧入,貯留し,地下でのCO
2の挙動を監視する。
2016年4月より地中へのCO
2貯留を開始し,2017年7月には約63,000トンに達した。
『気候変動と漁業資源 ―温暖化による産地や旬の変化―』(木所 英昭 氏)
私たちが食する水産物は天然資源に多く依存しており,とれる地域や季節によって種類や品質も異なる。そのため水産物には「産地」や「旬」が存在し,私たちの食文化や生活と深く関連してきた。しかし,近年,気候変動に伴う海水温の上昇によって魚介類の分布が変化し,これまでの産地や旬とは異なる地域や季節で魚がとれるようになった。特に海水温上昇が著しい日本海でその傾向が強いといわれている。漁業資源への気候変動の影響には,気候システムによる数十年周期の変動や,地球温暖化の両方が関連していると考えられる。また,気候変動に対する応答もマイワシのように大規模な資源量変動を伴う場合や,日本海におけるサワラ,ブリで観察される分布域の拡大が特徴的な場合もある。気候変動と漁業資源との関連については明らかでない部分も多いが,今後,産地や旬の変化に対応していくことが今後の水産業や私たちの食生活に求められる。
プロフィール
著書に「異常気象と人類の選択」,「地球温暖化の予測は『正しい』か? ― 不確かな未来に科学が挑む」,共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?温暖化リスクの全体像を探る」,「温暖化論のホンネ ―『脅威論』と『懐疑論』を超えて」 等がある。
1993年から日本海におけるスルメイカの資源変動要因に関する研究,スルメイカの資源評価・管理手法の開発に関する研究を中心に行ってきた。2016年4月より現職にて主にサンマの資源評価・管理手法の研究を行っている。専門は水産資源学。
センター主催のシンポジウム・講演会について
当センターの活動の一環として、シンポジウム・講演会を年3〜4回程度開催しています。その目的は、多分野にまたがる自然科学の相互理解を深め、研究の推進と教育の質の向上を図ることにあります。参加費は無料です。特に指定のない場合、聴講の対象に制限はなく、事前申込は不要です。ただし、取材の場合は事前に許可を取って下さい。
天災・交通事情など予期せぬ事態により変更・中止となる場合がございます。
その場合、本ウェブサイトで告知しますので、事前にご確認下さい。
問合せ先:慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 事務局 (日吉キャンパス来往舎内)
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