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2018年自然科学研究教育センター・シンポジウム 終了

昆虫のサイエンス最前線
2018.10.06
  • 日時 :
    2018年10月06日(土)13:00〜17:30
    13:00~17:30
  • 会場 :
    日吉キャンパス 第4校舎B棟 J29番教室
  • 主催 :
    慶應義塾大学 自然科学研究教育センター
  • 講師 :
    上村 佳孝

    慶應義塾大学 商学部 生物学教室 准教授

    辻  和希 氏

    琉球大学 農学部 亜熱帯農林環境科学科 教授

    五箇 公一 氏

    国立環境研究所生物 生態系環境研究センター(生態リスク評価・対策研究室)/室長

    森島 圭祐 氏

    大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 教授

    三戸 太郎 氏

    徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 准教授
  • 参加費 :
    無料(申込不要)
  • 対象 :
    一般・学生・教職員

このイベントは終了しました

プログラム

13:00-13:10 開会挨拶 大石 裕(本塾常任理事・法学部教授)

13:10-13:50 講演1. 『昆虫の交尾器とその多様な進化』
上村 佳孝 (慶應義塾大学 商学部 生物学教室 准教授)

13:50-14:30 講演2. 『アリ社会の裏にある「裏切り者の取り締まり」と自己組織化』
辻 和希 氏 (琉球大学 農学部 亜熱帯農林環境科学科 教授)

(休憩 15分)

14:45-15:25 講演3. 『ヒアリをはじめとする外来昆虫類の化学的防除』
五箇 公一 氏 (国立環境研究所生物 生態系環境研究センター(生態リスク評価・対策研究室)/室長)

15:25-16:05 講演4. 『昆虫と機械を融合したリビングデバイス』
森島 圭祐 氏 (大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 教授)

(休憩 10分)

16:15-16:55 講演5. 『フタホシコオロギの食料資源化に向けた研究』
三戸 太郎 氏 (徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 准教授)

16:55-17:25 総合質疑討論

17:25-17:30 閉会挨拶 金子 洋之(所長・文学部教授)

講演要旨

『昆虫の交尾器とその多様な進化』(上村 佳孝)

 我々もヒトも含めて,オスとメスという2つの性で子孫を残す動物では,その生殖器官以外にも様々な性差が見られる。カブトムシの角やクワガタの大あごのように,オスにだけ武器が発達していたり,クジャクのようにオスのみが派手な装飾をまとうことが多い。このような性差はなぜ進化するのだろうか?
 また,交尾をおこなう動物では,交尾器の形の進化は速い。そのため,交尾器を観察することではじめて種類を判定できることも多い。なぜ多様化するのだろうか?
 昆虫は既に名前が付けられているものだけでも100万種にのぼり,種数において生物多様性の頂点に立つ。まさに地球は昆虫の星と言える。陸上へ,そして空中へと活動の場を広げてきた昆虫たちは,交尾をおこなう動物の代表であり,その交尾器の形には摩訶不思議な多様性が観察される。
 「体より長い交尾器をもつ昆虫」,「スペアの交尾器を持つ昆虫」,「交尾器でメスを傷つける昆虫」,そして,「メスがペニスを持つ昆虫(2017年のイグ・ノーベル生物学賞)」など。奇想天外に見える交尾器の世界を探ることで明らかとなってくる,オスとメスを巡る一般的な進化メカニズムについて考えたい。

『アリ社会の裏にある「裏切り者の取り締まり」と自己組織化』(辻 和希 氏)

仲間の裏切りを懲らしめる
トゲオオハリアリ

 本日お話しする内容は独自データにもとづくオリジナルなのものですが,進化生物学などですでに確立された基本理論に根差しています。しかし,日本ではこれら基本概念に対するリテラシーが一般に著しく低いので,そのあたりの解説から始めます。
 アリは進化生物学のスター生物です。自分では子供を作らない働きアリの存在がダーウィン以来の自然選択理論上の難問だったからです。本講演ではまず,このようなアリの利他行動も『種の利益』でなく種内競争で理解できるという現代進化生物学のスタンダードな考えを解説します。血縁選択説や利己的遺伝子説などと呼ばれる考えです。
 次にこの血縁選択説でも一見うまく説明できそうにない現象に注目した自身の研究を紹介します。働きアリは姉妹である他の働きアリの利己的な産卵行動を互いに監視していますが,日本のトゲオオハリアリではこの監視行動が血縁選択説の直感的予測と矛盾し,近親者の繁殖をことさらに妨害しているように見えました。しかし血縁選択理論に生活史戦略という考えを導入すれば監視行動の発現パターンが正確に予測できることを理論とデータで示します。
 アリの上記行動の背後には,暗闇にもかかわらず社会の大きさ(仲間の働きアリの数)を「知る」ことができるアリの不思議な能力があります。しかしその仕組みは未解明でした。アリは個体自身が出くわす状況に単純なルールに従って反応しているだけにもかかわらず,巣全体を俯瞰しているかのように振る舞うという自律分散制御と自己組織化がそれであることを示します。

『ヒアリをはじめとする外来昆虫類の化学的防除』(五箇 公一 氏)

 国立環境研究所では,外来生物の防除技術の開発を進めており,特に外来昆虫類に対して化学的防除の適用を試みている。国内において分布拡大が問題となっている特定外来生物指定昆虫セイヨウオオマルハナバチ・アルゼンチンアリ・ツマアカスズメバチの3種はいずれも社会性昆虫であり,防除エンドポイントはワーカーの駆除ではなく,次世代繁殖虫(新女王・オス)の生産阻止となる。我々はこれら外来昆虫に対して,巣の中に薬剤を持ち帰らせることで巣を崩壊させ,個体群成長を抑止する手法を開発し,実用化を目指している。特にアルゼンチンアリについては2011年より東京都における個体群を対象としてベイト剤(殺虫成分を含んだ餌)を活用した計画的防除を実施し,防除効率・薬剤生態影響の定量的データを取得するとともに,根絶確認のための数理統計モデルを開発して,世界初の地域個体群根絶を達成するに至った。これらの成果に基づき,防除マニュアルを整備し,全国レベルでの防除を展開している。昨年,輸入コンテナによる随伴侵入が確認されたヒアリに対しても,薬剤メーカー協議会を設立し,官民共同 態勢でこれまでの情報・技術に基づき今後の侵入・定着時に備えた防除戦略を構築している。さらに国立環境研究所では2018年度よりヒアリ対策プロジェクトを始動し,防除対策の集中・強化を進めている。

『昆虫と機械を融合したリビングデバイス』(森島 圭祐 氏)

自律分散型センサロボット

 生物の筋肉をアクチュエータとして利用するバイオアクチュエータや昆虫の運動を電気刺激により制御する昆虫サイボーグなど,生物と機械を融合することで従来の機械システムには無い特徴を持ったバイオハイブリッドロボットが多数報告され,新たな機械システムとして注目されている。生体内の化学エネルギを電気エネルギに変換することが出来れば,生物が生きている間は燃料補給され続ける半永久電源や駆動し続けるアクチュエータの開発が可能であり,自立駆動や自己発電により駆動可能なバイオハイブリッドロボットの創製が可能となる。これらリビングデバイスの例として,化学エネルギで駆動する筋肉や細胞を駆動源とするバイオアクチュエータ,それらを構成部品とするマイクロロボット,生物中に含まれる糖を燃料としたLiving battery,昆虫自身の生体・生理機能を用いた昆虫搭載型バイオ燃料電池,Living batteryを用いたバイオハイブリッドロボットの開発について紹介する。

『フタホシコオロギの食料資源化に向けた研究』(三戸 太郎 氏)

コオロギ加工食品の例:
高タンパク質ビスコッティ

 世界的な人口増加による食糧危機や環境問題への対策の一つとして,昆虫資源の食用利用への関心が高まっている。昆虫は一般に,高タンパク質であることに加えビタミン,ミネラルや不飽和脂肪酸の含有量の点でも優れており,かつ糖質の割合が低いため,機能性食材として有望である。しかし,昆虫の食用利用推進のためには,生産性向上,食品としての機能性や安全性に関する十分な情報の取得,食用への心理的抵抗の払拭,といった課題がある。我々は,フタホシコオロギの食用利用に向けた研究を行なっており,上記の課題の克服に取り組んでいる。低コストでの安定生産のために,食品副産物などの利用による飼料開発や,高密度飼育装置の開発を進めている。一方で,本種コオロギの機能性・安全性評価のための動物実験などを行なっている。さらに,コオロギの摂取を物理的,心理的に容易にするために,食品としての加工方法について検討をおこなっている。これらの研究を通じて,食用フタホシコオロギの大量生産システムを構築し,また,機能性を明確にした昆虫加工食品を開発することを目指している。本講演では,これらの研究の経過や成果について紹介するとともに,昆虫の食料資源化の発展の可能性について議論したい。

プロフィール

上村 佳孝

慶應義塾大学 商学部 生物学教室 准教授
東京都立大学(現,首都大学東京)理学部生物学科卒業。同大学院博士課程単位取得退学。博士(理学)。立正大学地球環境科学部助手,北海道大学大学院農学研究院助教などを経て,2013年より現職。昆虫の交尾器・繁殖の進化研究を続けながら,文系学生を対象とした生物学教育に携わる。著書,「昆虫の交尾は,味わい深い…。」(岩波科学ライブラリー)など。交尾器が雌雄逆転した昆虫「トリカヘチャタテ」の研究で2017年度イグ・ノーベル賞共同受賞。
辻  和希 氏
辻  和希 氏

琉球大学 農学部 亜熱帯農林環境科学科 教授
現職:琉球大学農学部教授。
学歴:名古屋大学大学院修了(農学博士)。
専門:進化生態学。
研究:昆虫の社会行動を軸に研究を展開。
主著:「生態学者・伊藤嘉昭伝 もっとも基礎的なことがもっとも役に立つ」
   (共著)海游舎。
その他:国際昆虫学会日本地区会長,日本学術会議行動生物学分科会委員長。
五箇 公一 氏
五箇 公一 氏

国立環境研究所生物 生態系環境研究センター(生態リスク評価・対策研究室)/室長
1990年,京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了,同年,宇部興産株式会社農薬研究部入社。1996年,京都大学博士号(論文博士)取得(農学)。同年,国立環境研究所入所,現在に至る。専門は保全生態学,農薬科学。主な著書に「クワガタムシが語る生物多様性(集英社)」,「終わりなき侵略者との闘い~増え続ける外来生物~(小学館)」など。テレビや新聞等マスコミを通じて生物多様性・生態リスクの啓蒙にもつとめる。
森島 圭祐 氏
森島 圭祐 氏

大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 教授
1998年名古屋大学大学院修了 博士(工学)。同年スタンフォード大学博士研究員,2001年(財)神奈川科学技術アカデミー研究員,2004年ルンド工科大学客員研究員,2005年東京農工大学大学院工学府助教授,2007年東京農工大学大学院生物システム応用科学府准教授を経て,2011年大阪大学大学院 工学研究科機械工学専攻教授,現在に至る。専門はマイクロナノロボティクス,BioMEMS。奈良市出身。
三戸 太郎 氏
三戸 太郎 氏

徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 准教授
学歴:1999年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了 博士(理学)。
専門領域:発生生物学,昆虫科学。
研究内容:昆虫のゲノム機能解明と資源利用に関する研究。
主な著作: Horch, W.H., Mito T., Ohuchi H., Noji S. eds. The Cricket as a Model Organism. 367pp., Springer Japan, Japan (2017).
Watanabe T., Noji S., Mito T. Genome editing in the cricket, Gryllus bimaculatus. Methods Mol Biol. 1630: 219-233 (2017).
Ishimaru Y., Tomonari S., Matsuoka Y., Watanabe T., Miyawaki K., Bando T., Tomioka T., Ohuchi H., Noji S., Mito T. TGF-β signaling in insects regulates metamorphosis via juvenile hormone biosynthesis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 113: 5634-5639 (2016).

センター主催のシンポジウム・講演会について

当センターの活動の一環として、シンポジウム・講演会を年3〜4回程度開催しています。その目的は、多分野にまたがる自然科学の相互理解を深め、研究の推進と教育の質の向上を図ることにあります。参加費は無料です。特に指定のない場合、聴講の対象に制限はなく、事前申込は不要です。ただし、取材の場合は事前に許可を取って下さい。

天災・交通事情など予期せぬ事態により変更・中止となる場合がございます。
その場合、本ウェブサイトで告知しますので、事前にご確認下さい。

問合せ先:慶應義塾大学 自然科学研究教育センター 事務局 (日吉キャンパス来往舎内)
〒223-8521 横浜市港北区日吉 4-1-1
Tel: 045-566-1111(直通) 045-563-1111(代表) 内線 33016
office@sci.keo.ac.jp

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