生体活性セラミックスの原子レベルの構造と機能の発現
生体活性セラミックスの原子レベルの構造を分光学的な方法を用い
て精密に評価し、発現する機能・物性に関連する信頼性の高いデータを得る。
目的
本研究プロジェクトは、2024年度に引き続き「水酸アパタイト(HA)の同型イオン置換に伴う構造変化と生体親和性の発現」を主たる研究内容とする。代表者の井奥は種々のリン酸カルシウム系バイオセラミックスを作製し生体親和性を評価してきたが、原子レベルでのキャラクタリゼーションが課題として残されている。メンバーの藤森は中性子回折実験により歯や骨の主成分であるHAの電気伝導性のメカニズムを解明し成果を挙げてきた。本研究プロジェクトでは、HAの同型イオン置換に伴う原子レベルの構造変化と生体親和性、そして電気伝導性がう蝕(むし歯)に与える影響を解明する。本研究プロジェクトは、再生医療や歯科治療の分野に新たな画期的視点を与えられると期待される。
内容
本研究プロジェクトメンバーは、HAの高温中性子回折測定によってイオン伝導のメカニズムにプロトン(水素イオン)が関与していることを実験的に明らかにした。そこで本研究では、代表者がCaサイトに同型イオンを置換したHAを合成し、メンバーがその原子レベルの構造を評価し、あわせて電気伝導度の測定も行う。既往の研究では、欠損量や同型イオンの置換量を全く評価することなく物性評価のみが行われている。所望の置換イオンを合成出発原料に仕込んだとしても、それらの全てがCaに置換する保証はなく、発現した機能が何に起因するものなのか評価できていないのが現状である。そこで、それらの問題を解決するために、まずは従来の合成法の見直しを行う。具体的には、合成中におけるリンの揮発を抑制するために、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた合成法の提案を行う。さらに我々が得意としているラマン散乱、固体NMR、X線回折データのリートベルト解析を用いて原子レベルの構造評価を行う。X線回折は、重原子からなる結晶構造のメインフレームに関する情報を与えるものであるが、その一方で欠陥などの長距離的な周期構造が乱れた系、あるいは重原子と共存する酸素、水素などの軽原子の挙動を研究する手段としては不適当であるため、これらの手法も相補的に用いて研究を進める。前年度に続いて2025年度においても、精密分光分析の専門家である山口大学の藤森宏高准教授を研究プロジェクトメンバーとして共同で研究を行うことが必要である。