シャジクモ類の原形質流動 †
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実験のねらいと特徴 †
シャジクモ類(シャジクモまたは、フラスモ)の原形質流動を観察することで『植物が積極的に運動している』ことを体感する。観察を通して、光学顕微鏡の操作方法を習得する。
実験の流れ †
- 準備
- 前説明
- シャジクモについて
- 原形質流動について
- 明視野顕微鏡の使用法について
- スケッチの描き方について
- 実験中
- シャジクモの体制の観察
- 原形質流動の観察
- サイズの測定
- 実験後
- レポート作成と提出
- 片付け
はじめに †
生物が生きていくためには、必要な物質を必要な場所へと運ぶ必要がある。たとえば肺から取り込まれた酸素は血管を通して全身へと運ばれる。必要な物質を能動的に運ぶメカニズムは、1つの細胞中においても存在している。植物細胞は、動物細胞に比べて大きいので、動物細胞のように拡散作用だけでは、細胞内の物質の移動は不十分である。植物細胞にみられる原形質流動は、それを補う植物細胞の能動的な物質移動メカニズムと見ることができる。原形質流動は、動物の筋肉運動と似た仕組み、つまりモータータンパク質であるミオシンがATPを分解して、アクチンフィラメント上を滑るという仕組みによって、起こると考えられている(図1)。この原形質流動は、1770年代に、初めて、シャジクモにおいて観察されている。
図1.アクチンとミオシンの仕組み アクチンが鉄道のレールに、ミオシンが電車に相当し、 たくさんのミオシン電車がアクチンのレール上を一方向 に走っている。その影響で、原形質に流れが生じ(駅で 電車が通過すると風が起こるのと同じ)、原形質中の粒 子が動かされ、原形質流動が目に見える。 |
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シャジクモは、淡水に生育する藻類である。その構造は、藻類としては複雑で、仮根、主軸、小枝から成るが、維管束構造は発達せず、種子植物やシダに比べはるかに簡単な作りをしている。主軸や小枝を構成する節間細胞は、長さが数mm以上もある非常に大きい細胞であり、その葉緑体は、細胞の表層に1層にならんでいる。また、細胞の中央は液胞で満たされているため、光学顕微鏡での観察が容易である。(図2)
目的と課題 †
- (目的1) シャジクモの形態を観察する。
- 課題1:小枝を観察して、スケッチし、各部の名称を記入する。(図2A参照)
- (目的2)シャジクモの節間細胞において原形質流動を観察する。
- 課題2:節間細胞の長さと幅を計る。
- 課題3:中立線と流動方向の関係、細胞の周辺部と中央部での流動速度に留意し、1つの細胞内での立体的な動きを観察する。
- (目的3)節間細胞以外の細胞における原形質流動を観察する。
- 課題4:節間細胞以外の細胞において、原形質流動の有無を調べ、実験全体を通して、この生き物にとって、原形質流動はいかなる意義を持つか考察する。
実験 †
材料 †
- シャジクモ(Chara braunii):
主軸から小枝が輪生している部分において、主軸をハサミで切ることで、小枝に分けておく。(1小枝/1人)
フラスモ属(Nitella)も材料として使うことができる。フラスモの場合は、小枝の付け根をハサミで切る。
器具 †
- スライドガラス(1枚/1人)
- 18mm角 カバーガラス(1枚/1人)
- 光学顕微鏡(1台/1人)
- ピンセット(1本/1班)
- ピペット(1本/1班)
手順 †
- プレパラート作成
- 観察とスケッチ
- 低倍率で全体を観察する。
- 粗動ハンドルをゆっくり回して、徐々にステージと対物レンズの距離を離していくと、まず節間細胞下面を見ることができる(図3a)。微動ハンドルを動かして葉緑体と中立線にピントをあわせ、中立線の両側で原形質流動の向きがどのようになっているか確認する。(注3)
- 微動ハンドルをゆっくり動かして、さらにレンズとステージの距離を離していくと、葉緑体も中立線も消え、原形質流動だけが見えるようになる(図3b)。さらにもっと距離を離すと、今度は細胞上面の葉緑体と中立線が見えてくる(図3c)。ここでも、中立線の両側で、原形質流動の向きを確認する。
- 中立線が視野中央部にはっきり見えるようにしてから、対物レンズを高倍率に切り替え、絞りを適切に調整して、微動ハンドルをゆっくり前後に動かして中立線とその周辺の葉緑体を観察する。微動ハンドルを駆使することで、原形質の流れを三次元的に把握する。
- 低倍に戻し、節部細胞、托葉冠(ない種もある)、生殖細胞などの原形質が流動しているかどうか、観察する。
- 一通りの観察をしたら、低倍で節間細胞1個分と托葉冠・節部細胞をスケッチする。節間細胞が長い場合は、中間を省略してもよい。ii〜ivを繰り返して、スケッチに下面と上面の中立線・それぞれの中立線の両側での原形質流動の方向を記入する(中立線・流動とも上面は実線、下面は破線か赤線で表示するなど)。節部細胞や托葉冠などの原形質流動の有無も文と図で記録する。
- 高倍にして、上面の中立線とその周辺の葉緑体をスケッチする。
- 低倍にして、節間細胞の長さと幅を測り(注4)、スケッチにスケールを記入する。
ポイントやトラブルシューティング †
- 注1:観察する細胞にダメージを与えないように、シャジクモは小枝の太い端をピンセットでつまむようにする。
- 注2:観察中、シャジクモが乾燥しないように、適宜、カバーガラスの脇から水を補う。
- 注3:プレパラートの作成直後は原形質流動が観察できない場合がある。5-10分ほどおいた後、観察すると原形質流動が観察できるようになる場合がある。細胞によって原形質流動の速さが異なる。その速度が遅いために、観察しづらい場合は、プレパラートを作り直す。
- 注4:ミクロメーターを使って、正確にサイズを測定するか、実視野直径からサイズを目測する。
実験を成功させるための留意点 †
実験前
- シャジクモを必要量、用意する。
実験中
- 生きている細胞を観察しているので、光源の熱による水分の蒸発や温度上昇は、最小限になるようにくれぐれも注意する。
本実験の発展 †
- ミクロメーターとストップウォッチを使って、原形質流動の速度を数値化する。(一日に何メール動くかに換算することで移動速度を実感できる。)原形質流動は、細胞膜に近い場所と中央とでは速度が異なるので、両者を比較するため、測定を数回繰り返し、測定値を統計処理し、検定を行うことができる。ミクロメーターの使用法や計測したデータの統計処理法を習得するための実験ともなる。
- 原形質流動はアクチンフィラメントにより調節されていることが知られている。したがって、その阻害剤であるサイトカラシンなどを処理することにより、原形質流動におけるアクチンフィラメントの関与を確かめることができる。
謝辞 †
東京大学・大学院総合文化研究科 坂山英俊 博士にシャジクモの同定をお願いいたしました。
資料 †
参考映像 †
時間=2分45秒
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- ファイル形式はmpg1です。
参考文献 †
- 上野 益三 編(1973) 川村多實二 原著 日本淡水生物学 北隆館
- 新免 輝男・横田 悦雄 (1993)「原形質流動の機構」遺伝47巻11号:42-46
- 田沢 仁(1995)「実験生物ものがたり 8 シャジクモ類」遺伝49巻11号:63-65
用語解説 †
- モータータンパク質
- ATPの加水分解エネルギーを利用して、物質の輸送を行うタンパク質の総称。
- ミオシン
- アクチンフィラメントと結合して、細胞の機械的な運動をひきおこす。
- ATP
- アデノシンに三つのリン酸が結合したヌクレオチド。ATPからリン酸が外れるときエネルギーが放出されるので、生体内でのエネルギー「通貨」とみなすことができる。
- アクチンフィラメント
- 細胞骨格を構成しているタンパク質の一種。アクチンが多数結合し、フィラメント状になったもの。
印刷用PDFマニュアル †
添付ファイル: シャジクモ.pdf 15件 [詳細] charafig2b.jpg 8件 [詳細] charafig3.jpg 8件 [詳細] charafig2d.jpg 9件 [詳細] charafig2c.jpg 10件 [詳細] charafig2a.jpg 8件 [詳細] アクチンミオシン2.swf 92件 [詳細]
Last-modified: 2009-03-22 (日) 01:38:36 (9d)