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自然科学研究教育センター若手研究者賞

若手研究者賞制度の概要

慶應義塾大学自然科学研究教育センターでは、センターに所属する若手研究者の研究成果を表彰する「慶應義塾大学自然科学研究教育センター若手研究者賞」を2023年度に創設しました。
受賞候補者は、現または元センター構成員(研究員・共同研究員・訪問学者・研修生を含む)であることとし、 審査の対象論文は、出版済みないしは採択済みの査読付き国際誌に掲載の論文1点とします。

2025年度の受賞者1

磯島 司氏(自然科学研究教育センター研究員・日本学術振興会特別研究員)

-受賞対象論文
Tsukasa Isoshima (In press) Infinitely many standard trisection diagrams for Gluck twisting. Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society. doi:10.1017/S0305004125101746

-受賞理由
4次元多様体の微分トポロジー的研究において、種々の多様体を効果的に基本分解する「トライセクション」とよばれる手法が [Gay-Kirby (2016)] により導入され成果を上げて来ている。この方面における著名な予想として、4次元球面のトライセクションが「標準的」なもののみに限定されることを主張する、所謂「4次元 Waldhausen 予想」がある。この予想に対しては、(球面に沿った切り貼り操作である) ‘Gluck twist’ によって(何らかの)反例が構成できるのではないかと長らく信じられてきたが、当該論文は、2 次元結び目のある種のクラスの ‘Gluck twist’ に対して、トライセクションにより得られた図式が(反例を与えず)全て「標準的」であることを証明し、(4次元 Waldhausen 予想と密接に関連した)Gay-Mayer の問題を(部分的ながら)肯定的に解決した。本論文で開発された高い自由度の手法は、今後(本丸である)4次元 Waldhausen 予想の完全解決を導くことが期待され、他の広範な問題にも適用可能なことが見込まれており、この方面の更なる研究の進展へのbreakthrough を与える可能性がある。本論文の出版が予定されている Math. Proc. Camb. Philos. Soc. は、創刊から180年を超えた歴史を有する伝統的 top journal として、その国際的評価は不動のものがある。以上に鑑み、本論文は当該賞の受賞に相応しい。

受賞コメント

この度は、栄誉ある2025年度自然科学研究教育センター若手研究者賞を頂く運びとなり、大変光栄に思います。受賞内容は、4次元球面のtrisection diagramの標準性に関する研究です。本研究では、4次元トポロジー、特にtrisectionの理論における、「4次元球面の任意のtrisection diagramはstandardであるか?」という未解決問題に対し、ある無限族のスパントーラス結び目に沿ったGluck twistから得られるtrisection diagramがstandardであることを、trisection diagramの変形を用いて示しました。本研究で取り扱ったtrisection diagramは無限族でしたが、無限族のtrisection diagramの変形方法に関するテクニックは研究時点では全く確立されていなかったため、そのテクニックをどのように作り出すかを考えることが本研究の最も困難な点でした。最終的には良い変形方法を考案することができましたが、これは、様々な数学の研究者と交わしてきた議論の賜物であると考えています。交流してくださった全ての方にこの場をお借りして感謝申し上げます。今後は、本研究で考案したテクニックをさらに発展させることで、trisectionおよび4次元トポロジーへの応用を探していきたいと考えています。また、自然科学研究教育センターには数学以外を研究されている方が多くいらっしゃいますので、その方々との研究に関する意見交換を通じて新たな視点を獲得し、それを数学に還元できるような研究を行うべく精進したいと思います。

論文概要

3つの4次元の1ハンドル体と呼ばれる単純な4次元多様体による一般の4次元多様体の分解を、4次元多様体のtrisectionという。trisectionは現在4次元トポロジーにおいて活発に研究されているが、その概念が導入されてからまだ日が浅いため、基本的な問題においても未解決なものが多い。本論文はその内の一つである、「4次元球面の任意のtrisection diagramはstandardであるか?」という問題に注目している。ここで、trisection diagramとは、trisectionによる分解の様子を可視化した図式のことである。この問題には現在、否定的解答例(standardではないtrisection diagram)の候補が先行研究により幾つか存在しており、その中に、Gluck twistと呼ばれる4次元多様体の改変操作により得られるtrisection diagramがある。本論文では、そのGluck twistから得られるtrisection diagramの内のある無限族のtrisection diagramが、否定的解答例ではなく、実際には肯定的解答例となっている(standardである)ことを示した。否定的解答例の候補の中から肯定的解答例を見つけた研究は今まで存在せず、無限族のtrisection diagramを扱うことも一般には全く容易ではない。本論文では、無限族のtrisection diagramを帰納的に扱える新しい技術を導入し、その困難をクリアすることに成功した。この技術をより発展させることで、trisectionの理論をさらに4次元トポロジーに応用できる可能性が期待される。

2025年度の受賞者2

田口 瑞姫氏(自然科学研究教育センター共同研究員・Postdoctoral researcher at Department of Molecular Biology, Umeå University, Sweden)

-受賞対象論文
Mizuki Taguchi, Kota Minakata, Akihiro Tame, Ryohei Furukawa (2022) Establishment of the immunological self in juvenile Patiria pectiniferapost-metamorphosis. Frontiers in Immunology 13:1056027. doi: 10.3389/fimmu.2022.1056027
論文へのリンク https://doi.org/10.3389/fimmu.2022.1056027

-受賞理由
本論文では、イトマキヒトデの免疫学的自己が、変態後の稚ヒトデ期に確立されることを見出している。著者らは、イトマキヒトデの胚・幼生期の免疫系が同種異個体に対して免疫応答を生じないのに対し、変態後の成体の免疫系は同種異個体を拒絶することから、免疫系が変態の前後で成熟すると予想した。そして、複数の胚の細胞から作成したキメラ幼生の発生を追跡することで、すべての同種異個体混合キメラが、変態して稚ヒトデまで成長した後、2週間から2ヶ月の間に死滅することを明らかにした。これらの結果から、イトマキヒトデの免疫系が稚ヒトデ期に成熟し、同種異個体を拒絶する能力を獲得することが示された。本論文は、無脊椎動物における免疫系の個体発生や、その自己・非自己認識メカニズムに関する今後の研究の基盤となるものであり、生物学的視点から「自己とは何か?」という問いに答えるための、さらなる研究の発展に寄与する成果を含む。以上のように、本論文が高い学術的重要性ならびに発展性を有すること、そして受賞者が筆頭著者として、本研究において主要な貢献を果たしたことが高く評価された。以上に鑑み、本論文は当該賞の受賞に相応しいと結論付けた。

受賞者コメント

このたびは、慶應義塾大学自然科学研究教育センター若手研究者賞という栄誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。本研究は、無脊椎動物における免疫系の発生過程、特に「自己」と「非自己」を識別する免疫学的自己がいつ確立されるのかという、免疫学の根幹に関わる重要な問いに取り組んだものです。ヒトデ Patiria pectinifera の胚・幼生期では、同種異個体由来の細胞は免疫系から攻撃されませんが、変態過程を経て稚ヒトデ期に到達すると、拒絶されることを発見しました。これにより、免疫学的自己が稚ヒトデ期に確立されることを明らかにすることができました。本研究の端緒は、自然科学研究教育センターの2020年度プロジェクト研究費による「棘皮動物ヒトデにおける再構築キメラ個体の変態研究」プロジェクトに参加させていただいたことにあります。様々な分野で活躍されているセンター所員の皆様との議論や、センターからの支援を受ける中で研究が発展し、論文としてまとめることができました。日頃よりご指導いただいている先生方、ならびに共同研究者の皆様に心より感謝申し上げます。今後は、本研究成果を基盤として、免疫系の発生を支える分子機構の解明に取り組み、無脊椎動物免疫学および発生生物学の発展に貢献していきたいと考えております。

論文概要

免疫系が「自己」と「非自己」を識別する能力(アロ認識能力)をいつ獲得するのか、すなわち免疫学的自己がいつ確立されるのかは、免疫学における重要な課題の一つである。しかし、無脊椎動物では十分に解明されていない。本研究では、ヒトデ Patiria pectiniferaをモデル生物として、この問題に挑んだ。本研究ではまず、成体の免疫細胞が他個体由来の細胞を貪食することを明らかにし、成体がアロ認識能力を有することを確認した。次に、異なる親由来の胚を単一細胞まで解離後、混合して作製したキメラ個体を用いて、変態後の生存および組織形態を詳細に観察した。その結果、同種異個体キメラは幼生期までは正常に発生するものの、変態後の稚ヒトデ期に達した約2週間後から組織の萎縮を伴う形態異常が観察され、最終的に同種異個体キメラは全滅した。これらの結果から、 P. pectiniferaにおいて免疫学的自己は変態後の稚ヒトデ期に確立されることが示された。本研究は棘皮動物における免疫系成熟の時期を初めて明確にした研究である。本成果は、無脊椎動物の自己・非自己認識機構の理解を深めるとともに、免疫系発生の進化的理解に重要な知見を提供する。

論文へのリンク
https://doi.org/10.3389/fimmu.2022.1056027

慶應義塾大学プレスリリース
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2022/12/14/28-134100/

歴代の受賞者

2023年度の受賞者

2024年度の受賞者

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