自然科学研究教育センター若手研究者賞
若手研究者賞制度の概要
慶應義塾大学自然科学研究教育センターでは、センターに所属する若手研究者の研究成果を表彰する「慶應義塾大学自然科学研究教育センター若手研究者賞」を2023年度に創設しました。
受賞候補者は、現または元センター構成員(研究員・共同研究員・訪問学者・研修生を含む)であることとし、 審査の対象論文は、出版済みないしは採択済みの査読付き国際誌に掲載の論文1点とします。
今年度の受賞者
杉山 晴紀氏 (一般財団法人 総合科学研究機構(CROSS) 中性子産業利用推進センター・研究員)
-受賞対象論文
Haruki Sugiyama, Kohei Johmoto, Akiko Sekine, Hidehiro Uekusa
In-Situ Photochromism Switching with Crystal Jumping through the Deammoniation of N-Salicylideneaniline Ammonium Salt.
Crystal Growth & Design, Vol. 19, Issue 8, 4324-4331 (2019)
論文へのリンク
https://doi.org/10.1021/acs.cgd.9b00039
-受賞理由
本論文は、サリチリデンアニリン誘導体のアンモニウム塩である有機結晶において、アンモニアの脱離および再吸着により結晶構造を維持したままフォトクロミズム物性を可逆的に制御できることを見出した報告である。本成果は分子吸脱着を鍵とした動的な結晶構造制御が可能であることを示唆しており、センサーなど産業利用を含めた様々な分野での利用が期待される。以上のように報告された成果の重要性に加え、受賞者が筆頭著者として研究に主要な貢献を行ったことが高く評価された。
受賞コメント
このたびは、栄誉ある2024年度若手研究者賞を頂くこととなり、大変嬉しく、また身の引き締まる思いです。受賞内容は、外部刺激に応答して物性が変化する材料の開発研究になります。本研究では、加熱や蒸気暴露といった外部刺激を利用して、有機結晶材料を構成する分子の配列をその場で組み換え、その特性を変化させることに成功しました。有機結晶中では分子が規則的に配列しており、その結晶構造は強固です。この研究の最も難しい点は、 強固に保たれている分子配列に変化を与え自在に組み替える方法を見つけることでした。私は、物質の吸着脱離を利用して分子配列を変化させる方法を考案いたしましたが、これは自然科学研究教育センターに在籍する多様な専門分野の研究者との交流を通じ、異なる視点から物事を見る機会を得た環境で生み出されたものと確信しています。いつも温かく研究を見守り、ときには議論に付き合っていただいた、共同研究者、自然科学研究教育センター所属メンバーの皆様に感謝申し上げます。また、本研究成果が、結晶材料の新しい構造制御方法として、産業界および学術界に大きなブレークスルーをもたらすことを期待しています。これからも、現状に慢心することなく、研究活動に精進してまいります。また、多様な専門分野の研究者に知り合い、異なる視点で物事を観察する機会を大切にしながら、新しいサイエンスを開拓したいと思います。
論文概要
サリチリデンアニリン(SA)と呼ばれる有機物は、光を照射すると黄色から赤色への可逆的な色変化現象(フォトクロミズム)を示すことが知られている。興味深いことに、固体中のSA分子がねじれている場合にのみフォトクロミズムを示す。申請者はこの物性と構造の相関関係に特徴に注目して、固相中の分子構造をその場変化させ、フォトクロミズム物性を切り替えることを考案した。本研究では、SA誘導体のアンモニウム塩結晶を合成し、加熱による脱アンモニア反応から、フォトクロミズム物性のスイッチに成功した。X線回折法を用いて、脱アンモニア過程での結晶構造変化を精密に捉え、フォトクロミズム物性変化との相関を明らかにした。本成果は、分子の吸脱着を鍵として、固体のその場構造制御が可能であることを示唆しており、新しい構造改変手法として様々な分野での応用が期待される。