グルコース燃料電池 †
実験の紹介 †
実験の目的とねらい †
燃料電池は水素を燃料とするものが主流であるが、有機化合物のグルコースなども燃料になり得る。本実験では、備長炭と白金箔を電極材料として、燃料電池が作れることを学ぶ。
実験内容 †
素焼きの半円筒容器の中にグルコースアルカリ溶液を入れ、それに白金箔電極を差し込んで浸す。この素焼き容器をビーカーに入れ、そのビーカー内にもアルカリ液(1M KOH)を入れる。さらに、備長炭をビーカーの中に入れることで、電池が完成する。電圧をテスターで測定後、ソーラーモーターに結線して、プロペラの回転が何分続くか調べる。
実験上の注意 †
<実験開始前の準備>
[使用器具および試薬]
・素焼きの半円筒容器
・白金箔電極
・備長炭(希水酸化ナトリウムに一晩浸け、次に希硫酸に一晩浸け、さらに水洗い後に蒸留水中で30分程度煮沸し、そして高温で乾燥(200℃で1時間)させて活性化したもの)
・テスター、ミノムシおよびワニグチクリップ付リード線
・プロペラ付きソーラーモーター
・グルコース
・個人器具および机上試薬
<実験開始時の注意>
・グルコース燃料電池は組み立ててから放置すると、すぐ電圧が下がってしまう。
・白金箔は高価である。(無理に扱って破らないこと)。
・白金箔のエッジは鋭利であり、指をけがしないように注意する。
・白金箔電極は水でよく流してから返却すること。
・備長炭は1度使用すると濡れるために活性が落ちる。(表面をテフロンコーティングした備長炭は、2〜3回の連続使用が可能)。使用後は蒸留水中で煮沸し、高温乾燥しておく必要がある。
<失敗例>
・ビーカーにグルコースを入れ、それに1M KOHを加えたら、グルコースが固まってしまった。(対策:最初に1M KOHをビーカーに入れ、撹拌しながらグルコースを少しずつ入れて溶かす)。
・燃料電池の電圧がマイナスになってしまった。(理由:備長炭の端に取りつけたアルミホイルを液の中に浸けたため)。
実験テーマの履歴など †
慶應義塾大学日吉キャンパスの文系学生を対象とする化学実験において、この実験テーマは2005年に開始されました。 安全でかつ手軽に組み立てられる燃料電池の実験例が、図書(1)に載っていたので、それを参考にして、グルコース燃料電池についての実験を開始しました。ところが、プロペラモーターを結線しても思うように回転しないという問題が生じました。実験条件を検討したところ、白金箔電極の面積が不足していたことが主な原因でした(2)。なお、備長炭は通常の試薬としては販売されていませんが、インターネットで検索したところ、長さや太さの概略を指定して特注できることがわかりました。白金箔は耐久性を考えて厚さ0.01 mmのものを購入しましたが、非常に高価です。
参考文献
(1)「もっと化学を楽しくする5分間」(化学同人2003年).化学電池づくり、pp.142-148.
その中(p.148)で引用されている次の文献を特に参考にした。
峯岸常之「活性炭および備長炭を正極に用いた有機燃料燃料電池」
化学と教育、47巻566-567 (1999年)
谷川直也「グルコース、メタノールを用いた簡易な燃料電池」
化学と教育、48巻542-543 (2000年)
(2)福山勝也、大橋淳史、大場茂「備長炭を空気極としたグルコース燃料電池の改良」慶應義塾大学日吉紀要・自然科学 43巻63-74 (2008年).