電子の電荷と質量の比
電子は電荷を持っているので,磁界中をローレンツ力を受けて円運動する。遠心力とローレンツ力が釣り合うことから,電子の電荷と質量の比を求める。
ヘリウム原子と衝突する電子の軌跡
電子は数ある素粒子の中でも、光子(フォトン)と並んで身近な存在である。本実験 では、磁場中をサイクロトロン運動する電子の軌跡を観察し、比電荷(e/m)を測定する。磁場の変化とともに電子の軌道が変化することから、電子が速度を持った荷電粒子 であることが直感的に理解できる。
実験・測定は簡単であるにもかかわらず、電子の美しい軌跡は、見るものに深い印象を与える。
概要
一様な磁場中に加速した電子を入射すると、円軌道を描く。この運動は荷電粒子が磁場から受けるローレンツ力によるもので、サイクロトロン運動と呼ばれる。 電荷e、質量mの荷電粒子を電圧Vで加速し、一様磁場中で運動させたとき、比電荷e/mについて次の式が成り立つ。

rはサイクロトン運動の半径、Bは磁場の強さである。BとVは容易に測定できるので、rを測定することにより、比電荷の値を求めることができる。
本実験では、電子が真空管内のヘリウムガスと衝突する際に発する蛍光として、サイクロトロン運動を直接観測する。磁場の発生源としては、ヘルムホルツコイルを用いる。
特徴
- 電子の軌跡は非常に美しく、楽しめる実験である。
- 装置は電気機器のみで構成されており、設置が簡単である。
- 熱および高熱が発生するが、装置はしっかりとシールドされており安全である。
- 電子の加速電圧と磁場の強さを自由に調整できるので、さまざまな条件の下で測定を行える。
装置
★詳細については、実験マニュアルを参照
「比電荷測定用装置」として、市販されている一般的なものを用いている。
比電荷測定装置 |
真空管用電源 |
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直流電源 |
電流計と電圧計 |
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実験の流れ
★詳細については、実験マニュアルを参照
画像 | 手順 |
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機器を正しく配線してから、電源を入れる。 |
青い軌跡の直径を、真空管内の目盛りから読み取る。加速電圧とコイル電流も同時に記録しておく。 |
比電荷測定装置による比電荷の測定手順
実施時の注意点
- 半径測定の際は、最も外側を測るように注意する。外側にいくほど軌跡がぼやけて見えにくくなるが、目視できる限界まで読み取る。
発展
- 永久磁石をガラス管に近づけると、電子の軌道が変化する。電子が磁場によって曲げられていることを実感するには、これを演示するのもよいであろう。
- 実験部屋を暗くすることにより、電子の軌道のより外側まで見えるようになり、系統的誤差を減らすことができる。しかしながら、授業は大変やりにくくなってしまう。
実験結果
-
データ集計の詳細については、物理学実験/データの集計についてを参照
測定量 | 比電荷 |
---|---|
標本数 |
300 |
比電荷の平均値 |
2.07 [1011 C/kg] |
標準偏差 |
0.17 [1011 C/kg] |
文献値 |
1.76 [1011 C/kg] |
- 比電荷の測定値は平均値を中心に分布しているが、この平均値は文献値1.76[1011 C/Kg]と比べてかなり大きい。この系統的誤差の主な原因としては、電子の軌道半径を小さめに測定してしまっている、ということが考えられる。サイクロトロン運動によりエネルギーを失った電子は円軌道の内側へ移動するため、半径の測定は、軌道の最も外側に対して行わなくてはならない。しかしながら、実験室の照明がついた環境では、軌道の外側のかすかな蛍光が見えにくくなる。
実験マニュアル
- 電子の電荷と質量の比
(287KB)