ナイロン66の合成 (b)
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸クロライドとの反応により、ナイロン66が生成すること(重合反応)を学ぶ。
実験風景
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ナイロンの糸をビーカーの外側に巻き始めたところ
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ナイロンの糸を巻き終わったところ
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生成したナイロンの糸の一部を切り取り、染色しているところ
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赤外分光光度計FT/IR-4100
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FT/IRの中に組み込まれているATRにナイロンの糸をセットするところ
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ナイロンの糸の赤外線吸収スペクトルを測定しているところ
実験の紹介
実験の目的とねらい
1927年頃、アメリカのデュポン社でカロザースは絹糸に似せた人工繊維を合成しようと試みた。しかし、ジアミンとジカルボン酸とを反応させても、生じた 水分により重合が止まってしまうため、なかなか思うようにポリマーを作ることができなかった。反応条件を変えて1年程度研究し、ようやく実用に耐えられる ような繊維を合成した。それがナイロン66である。今では2つの溶液を合わせるだけで非常に簡単にナイロンの糸が作れるようになったが、そこに至るまでに は幾重もの苦労があったのである。
実験内容
ヘキサメチレンジアミンと水酸化ナトリウムの混合水溶液を容器に入れ、アジピン酸クロライドのヘキサン溶液をゆっくり加える。容器内の液は2層に分離し、 その界面に膜状のナイロン66が生成する。これをピンセットでつまみ上げ、巻き取ることにより糸状のナイロンが得られる。水洗い後、メチルレッドなどの染 料を使って着色する。
実験上の注意
<実験開始前の準備>
[使用器具および試薬]
・乾燥した試験管
・メスカップ
・ピンセット
・ドライヤー
・キムタオル
・メチルレッド、ブロモクレゾールパープル、ローダミンBの各染料液(および染色専用のピンセット)
・ヘキサメチレンジアミン溶液
・アジピン酸クロライド溶液
・個人器具および机上試薬
[試薬の調製]
・ヘキサメチレンジアミン25 g を0.5M NaOH 430~450 mlの割合で溶かす。(冷暗所に保存する)。
・アジピン酸クロライド25 g を ヘキサン 480 mlの割合で溶かす。(冷暗所に保存する。ただし失活しやすい。このため、溶液を作ったら学生実験で使う前に、ナイロンの糸が実際に生成することを確かめ ておく必要がある)。この溶液を廃棄する場合は、濃アンモニア水とメタノールの混合液で必ず活性を落としてから廃液に出す。
・染色液は各1%くらいにする。メチルレッドはミクロスパーテル20杯をエタノール200 ml(3M NaOH 10滴程度を加えたもの)の割合で溶かす。(NaOHは入れすぎないこと)。
・ブロモクレゾールパープルはミクロスパーテル8杯をエタノール200 ml(3M NaOH 10滴程度を加えたもの)の割合で溶かす。(NaOHは入れすぎないこと)。
・ローダミンBはミクロスパーテル20杯をエタノール200 mlの割合で溶かす。
<実験開始時の注意>
・酸クロライド溶液は、乾燥した試験管を使う。
・ビーカーよりも蒸発皿のほうが紡糸しやすい。
・巻取り中のナイロンの糸には薬品がついているので、手で触らないようにする。
・染色前にナイロンをよく洗浄していないと、まだらになる。(染色液がpH指示薬であるため)。
・ナイロンは全部を染めるのではなく、良くできた部分だけを選んで染める。
・有機溶媒(ヘキサン)を使っているので、火気厳禁。
<失敗例>
・2液をかき混ぜてしまった。(水あめ状に固まってしまい、糸が作れない)。
・巻き取ったナイロンの糸をまとめて一度にビーカーからはずそうとしたところ、こんがらがってしまった。
実験テーマの履歴など
慶應義塾大学日吉キャンパスの文系学生を対象とする化学実験において、この実験テーマは2000年度以前から行なわれていました。実験の内容は参考 文献(1)(2)とほぼ同様です。なお、生成したナイロン66のATR法(全反射減衰分光法)による赤外スペクトルの測定を2008年度から開始しまし た。
参考文献
(1)「楽しい化学の実験室Ⅱ」日本化学会編(東京化学同人、1995年).ナイロンを作る、pp.15-19.
(2)「もっと化学を楽しくする5分間」日本化学会近畿支部編(化学同人、2003年).ナイロン66の合成、pp.126-127.